ファッションの持続可能な未来を考える「ファッションレボリューションデイ2019」

「ファッションレボリューションデイ2019」が4月24日、東京・渋谷のトランクホテルで行われた。4月24日は、2013年にバングラデシュ・ダッカにある世界的有名ブランドの衣服をつくる縫製工場が入ったビル「ラナ・プラザ」が崩壊し、1100人以上が犠牲になった日だ。トークセッションには、グッチやサンローランなどを傘下に収める仏ケリング、環境省、パタゴニア、H&Mなどの担当者が登壇し、ファッション業界における経営とサステナビリティの統合について語った。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

ラナ・プラザの事故は、人権が守られない労働環境下で、弱き者が強き者の犠牲になるというファッション産業の構造的課題を露呈した。翌14年、事故が起きた日は「ファッションレボリューションデイ」と名付けられ、同産業で働く人を中心に、世界でその構造を変革するための動きが始まる。

日本でも2016年から、日本版のイベント「ファッションレボリューションデイ」が立ち上がる。同じ悲劇を二度と起こさないために、よりサステナブルで、人にも環境にも配慮した真のファッションの価値とは何かーー。同イベントは、それを考えることが目的だ。

「ファッションレボリューションデイ2019」では、トークセッションと映画上映が行われた。平日13時から21時までという長時間にわたる有料イベントにも関わらず、約350人が参加し、その半数以上を20代前半の若者が占めた。

今回のテーマは「ミツケル、ヒロガル、エシカル baby steps lead to FASHION REVOLUTION」。

主催者で、「エシカルファッション」という言葉を日本に広げるきっかけをつくった一人でもあるETHICAL FASHION JAPAN代表の竹村伊央さんは、「今回は企業ブースを設け、聞くだけではなく自分たちで発見できる仕組みづくりを心掛けた。個人が考え、それが大きな力となり、世界や企業を動かしたり、企業の中の一人として何ができるかを考えられる機会をつくりたい」と話した。

トークセッションは4部構成で行われ、「ファッションと環境のつながり」には環境省と豊島、「トレンドメーカーとしてできること」にVOGUE JAPANとケリング、「なぜ今サステナビリティを推進するのか?」にH&Mとストライプインターナショナル、「今日からできるサステナビリティへの一歩」にNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーとパタゴニアが登壇した。

ケリング、環境損益計算書を使い経営とサステナビリティを統合

「トレンドメーカーとしてできること」に登壇した仏ケリング オペレーションズ・テクノロジー マテリアル・イノベーション・ラボラトリーのセシリア・タカヤマ氏。

ケリングは、ファッション業界の経営とサステナビリティの統合のカギを握る存在だ。昨年4月、同社はロンドン・カレッジ・オブ・ファッションと共同で無料オンラインコース「ファッション&サステナビリティ:変化する世界のラグジュアリー・ファッションを学ぶ」を開講。同CEOのフランソワ=アンリ・ピノー氏は「ラグジュアリー・ファッション業界のサステナビリティとイノベーションへの転換は、資源に限りのあるこの世界において必要なことというだけでなく、絶好のビジネスチャンス」と明言している。

ケリングは自社の環境への影響を測定するため「EP&L(環境損益計算書・ケリングスタンダード)」を活用している。これについて、タカヤマ氏は「ビジネスパーソンにCO2の排出量削減について話しても、簡単には自分ごととして捉えられない。しかしEP&Lを使うことで、どれだけのコストがかかっているのかを説明できる。サステナビリティは私たちのビジネスを成り立たせる要素の一つ。EP&Lは目指すビジネスを実現する上で有効なツールだ」と説明した。そして、高級ブランドであるからこそ、環境に配慮しかつ上質な素材を開発し製品に使っていくという姿勢を明らかにした。

「アパレル向けのゼロ・ウェイスト認証」誕生

ゼロ・ウェイストアカデミーの坂野昌理事長はパタゴニア日本支社ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー 篠健司氏と登壇し、協働して作成した「アパレルストア ゼロ・ウェイスト認証」を発表した。

ゼロ・ウェイストアカデミーが拠点を置く徳島県上勝町は2003年、「ゼロ・ウェイスト政策」を掲げ、ごみの再利用・再資源化を進めてきた。現在、同町のリサイクル率は81%に達している。残り19%は、製品自体が使い捨てのものとして製造されているものなど、つくる側にリサイクルの可能性が委ねられているものだ。町内外で「ゼロ・ウェイスト」を推進するために誕生した同団体の坂野理事長は今年1月、ダボス会議の共同議長にも世界の若手リーダーとして選ばれている。

「ゼロ・ウェイスト認証制度」は2017年に立ち上がり、これまでに飲食店を対象に認証を行ってきた。同制度は、消費者と企業のハブとなる店舗を通して、企業によるごみの削減を促し、さらに取り組みによって企業のブランド価値の向上を目指すものだ。

同認証を受けるには、社員や接客スタッフがゼロ・ウェイスト研修を受講し、ごみの適切な分別や資源化を実施、ゼロ・ウェイストを継続的に発展する計画が立てられているかなどが審査される。認証されたら、店頭で掲示できるステッカーが配布される。

坂野理事長は「ファッション産業は世界で2番目にCO2を排出している業界とも言われている。サステナビリティや循環型のビジネスに取り組むということは、これからのビジネス界においても成長戦略。取り組まない企業は淘汰されていく。世界経済フォーラムでも今、一番取り組むべきトピックは『持続可能性』と強調されていた」と説明し、「企業が一社で取り組めることは限られている。循環型のビジネスの仕組みをつくるには、消費者の一人ひとりと連携をして、みんなで取り組む仕組みをどうやってつくるかがテーマになる」と語った。

トークセッションの後は交流会が開かれ、夜の部ではNEUT Magazine創刊編集長の平山潤さんをモデレーターに迎えたトークセッションが行われたほか、映画『ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション 真の代償~』の上映会が行われた。

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