【先端医療を市民に】「患者の次の一手」へ戦略的研究 横浜市立大学

 研究成果の早期の社会還元を目指し、横浜市立大学(同市金沢区)が戦略的研究推進事業を推進している。多様な領域の中で、病気に苦しむ患者にとって「次の一手」となる最先端の治療法開発に対する期待はとりわけ高い。医師でもある同大の窪田吉信学長に医科学研究の成果を市民の元へ届ける取り組みを聞いた。

 -医科学研究についてどのような基本方針、体制で臨んでいるのか。

 「市大のミッションは研究成果をできるだけ早く市民に還元すること。医療分野では、最先端の基礎研究を臨床研究に橋渡しする体制を強化した。同時に、学長裁量事業として、市大の強みをとなる研究領域を明確にし、積極的に研究費を投入する戦略的研究推進事業を立ち上げた。研究活動の一層の迅速化を図りながら、研究の質を底上げしていく」

 -「戦略的研究」の進捗(しんちょく)状況は。

 「社会の要請に応える分野でさまざまな成果が出ている。脳卒中後のリハビリテーション効果を大きく促進する新薬の候補化合物を特定し、実用化へ向け治験を実施する。また、人類の脅威となる新興感染症MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスを迅速、簡便、正確に検出する方法に成功した。ほかにも、再生医療やがん治療など市民の関心が高い分野で実績が出ている」

 -次世代臨床研究センター(Y-NEXT)発足から4年、「臨床研究中核病院」の指定へ向けた手応えは。

 「大切なことは、質の高い研究、大学や病院によるサポート体制、そして実績の3点がそろうこと。特に重要な臨床研究に対するサポート体制は、Y-NEXT発足以降、大学を挙げ50人の陣容で臨んでいる。臨床研究中核病院の指定へ向けた総合的な取り組みが着々と進んでいる。市大の臨床研究促進はもとより、他の医療機関とのネットワークを通じて、市内、県内医療機関の臨床研究の中核として、県内全体の医科学研究を引っ張っていきたい」

 -14年ぶりに学部を再編し、今春から新体制がスタート。

 「教育力、研究力を一層強化し、地域貢献という市大の使命を果たしていく。新しい分野としては、先行的に今春、データサイエンス学部を新設した。医科学系の基礎研究は非常に複雑化しており、遺伝子やタンパク質などの膨大な情報をいかに処理して、良い成果を出していくかが問われる。また、臨床研究については、患者に関するデータから意味のあるものを見いだすために、新たな統計手法を用いる必要がある。医療分野に限らず、ビッグデータの解析を通じて、社会のニーズに応え、幅広く行政の施策に反映させていきたい」

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