現場から読み解く、食とサステナビリティの可能性

変わり始めたレストラン業界

食に関連している社会的問題は根深く深刻だ。

気候変動、人口増加、温室効果ガス、土壌水質汚染、森林伐採、バイオプラスチック 、人権、飢餓や富の格差など実に多岐にわたる。生命活動に欠かせない分野においてテクノロジーの開発や国際会議などでも議論され続けている。

そんな中、今年1月、スペイン・マドリード市で世界的な食の学会「マドリード・フュージョン2019」が開催された。

Madrid Fusión Reale Seguros 2019. Entradas, programa y agenda (www.madridfusion.net)

17年目となる同イベントは世界的に食のムーブメントを起こし続けており、近年ではグルテンフリーや発酵などもここから飲食業界に広まっていった。

世界中からシェフや生産者、フードジャーナリストらが集まり、聴講者2000人、発表者122人、大会全体の参加者数は1万3000人と世の中での関心が高いことがうかがえる。

注目すべきは、このイベントの背景に見える社会的流れにあるといえる。多くは食についての講演だが、その中でもフードロス、オーガニック、プラスチック問題、海の再生、サステナブルな料理、生態系、ビーガンなどの環境に関する講演が注目された。

同イベントは、レストランや食業界における社会的な意義やサステナビリティ啓発活動にも大きな役割を担い始めている。

日本のレストランでのサステナビリティの意識と取り組みとは

世界で様々な食環境に対する取り組みがなされている中で、日本の現状はどうだろうか。近年、他の業種と同じく、特に若い世代の環境への意識が高まっている。

都内では、生産者やシェフ、仲卸業などのためのサステナビリティやCSRに関する勉強会やカンファレンス等が行われるようになり、イノベーションが遅れているとされる日本の飲食業でも徐々にその意識は広まりつつある。

筆者自身も参加している銀座にあるレストラン re:DINE GINZA(リダインギンザ)では、食環境に取り組むシェフ達の料理も楽しめる。同店の谷口シェフ(23歳)は「皮や殻にも素材の持つ味・香り・旨みがあり、食材を丸ごと使うことで調理工程のフードロスを劇的に減らすことができる」という。

オマールエビの殻で出汁をとりソースなどにする伝統的な調理法では、最終的に殻を捨てることになるが、殻を乾燥させパウダー状にしてオマール塩を作り使用することで、料理仕上がり時の味わいを増すことができる。その結果、過剰な食材利用を削減するとともに食廃棄物削減に繋がっている。

筆者自身も、小麦の炭をパスタに練り込むというイタリア南部の伝統的な技術を応用し、廃棄予定野菜や未利用野菜をパウダー状にしてパスタに練り込むことで食のアップサイクルに取り組んでいる。また、 持続可能な認証を取得している食材を多用することにも力を入れており、さらなる認証食材の拡大や普及開発にも取り組んでいる。

食の価値と文化の変換期

日本の食に対する意識が少しずつ変わってきているとはいえ、まだまだ課題は多いのが現状だ。特に食の価値というものに日本人は敏感である。これは単に人口増加や気候変動、食文化の変化に関連する食料価格の世界的な高騰だけの話ではない。

一例として、恵方巻きやマグロ、ウナギなどが挙げられる。これらは文化の中で人が意図して消費を促したものである。ビジネスとしての発展が人の意識を変え、今日ではフードロスや生物の保全など地球環境における大きな問題となっている。

地球規模の環境変化に応じて食の価値や文化の変換を行うことが必要であり、それらの開発に取り組み消費者意識を変えていくことは、食のサステナビリティを考えるうえで非常に重要である。”事業と環境の共栄”こそが飲食業界の新たな世界をつくっていくことだろう。

レストランが果たすサステナビリティの重要な役割

レストランが食のサステナビリティに寄与できる事柄は非常に多い。一口に食環境といっても、コミュニティの創出、教育、サプライチェーンの管理、食の安全性、持続可能な開発、食の多様性、エネルギーの効率化、人権、労働環境、廃棄物管理、生物多様性…など多様な事柄に複雑に結びついている。

それほど”食”というのは人々の生活に密接に関わるものであり、レストランは消費者に食環境を提供するサプライチェーンの末端として非常に重要な役割を担っているのだ。

まだまだ日本レストラン業界でのサステナビリティや環境に対する意識や知識などは欧米に比べ低く、生産者、中間事業者、消費者などのサプライチェーン全体での、一貫した啓発活動の強化と、サステナビリティ・CSRに対し、足並みを揃えて取り組んでいくことこそが、誰も取り残さない持続可能な食の開発に繋がっていくと考えている。

松山 喬洋 (まつやま たかひろ)
スフィード 代表取締役 サステナブルフードディレクター
食の分野でのサステナビリティ・CSRのプロデュース、コンサルティング事業を展開。企業・自治体等に向けた、サステナビリティ・CSRの事業統合や商品、店舗プロデュース、イベントの企画まで幅広く行う。本場イタリアの星付レストランで修行した経験を持つ。23歳にして某TV番組で巨匠として紹介され、羽田新国際ターミナルや博多新駅ビルくうてん中目黒高架下PJなどの店舗開発にも携わる。
英国CMI認定国際CSRプラクティショナー資格 一般社団法人日本サステイナブル・レストラン(SRA)メンバー
内閣府認定全日本司厨士協会会員  東京都チームもったいないメンバー 環境省プラスチックスマートメンバー
地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会員 品川区環境カンファレンスチームEcoRoアドバイザー

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