【中原中也 詩の栞】 No.2「村の時計 詩集『在りし日の歌』より」

村の大きな時計は、

ひねもす動いてゐた

 

その字板のペンキは、

もう艶が消えてゐた

 

近寄つてみると、

小さなひびが沢山にあるのだつた

 

それで夕陽が当つてさへが、

おとなしい色をしてゐた

 

時を打つ前には、

ぜいぜいと鳴つた

 

字板が鳴るのか中の機械が鳴るのか

僕にも誰にも分らなかつた

 

 

【ひとことコラム】

目には見えない時間を針の動きや音で知らせてくれるのがアナログ時計です。長く時を刻み続けた古時計は、近所のご老人のような親しみとともに、時間そのものの化身のような不思議さを感じさせます。変化を続ける時代の中にも不変なものがあることを、その姿に感じます。

中原中也記念館館長 中原 豊

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