被選挙権がないのに立候補し、票が無効に! なぜ立候補却下できなかったのか、その理由を解説

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選挙に立候補するためには、被選挙権がある必要があります。
しかし、先日の統一地方選で行われた兵庫県議会議員選挙伊丹市選挙区と、兵庫県の播磨町議会議員選挙では、被選挙権がない候補者が立候補してしまいました。しかも、両方とも被選挙権がないことが有権者に周知されたのは選挙後であり、両者に投じられた票は無効票として処理されました。
今回はなぜこのようなことが起きたのか、過去の類似した事例を含めて解説します。

被選挙権について

まず、選挙に立候補するための権利である被選挙権を得るためには、基本的に一定の年齢に達する必要があります。衆議院と地方議会の議員は25歳以上、参議院議員と都道府県知事は30歳以上、というのが被選挙権を得られる条件です。
ただし、この年齢制限を満たしていても、犯罪により刑罰を受け、公職選挙法で定められた条件に当てはまると、選挙権、被選挙権ともに行使することができなくなります。このような状態を一般的に公民権停止と呼びます。

公民権停止の条件には細かい規定がありますが、何らかの犯罪で実刑判決を受け、その実刑期間中である人は公民権停止となるため、選挙へ立候補することや投票することができませんさらに収賄や選挙、政治資金関連の犯罪に関しては、一般的な犯罪に比べさらに厳しく、執行猶予期間中はもちろんのこと、罰金刑などでも一定期間公民権が停止されます
また、地方議会選では年齢を満たして公民権が停止されていなくても、被選挙権を得るためには、その選挙の選挙権がある必要があります。地方議会選の選挙権を得るためには、都道府県議会選の場合、3カ月以上その都道府県内の同一の市区町村に住所がある必要があり、市区町村議会選の場合は、3カ月以上その市区町村に住所がある必要があります(厳密にいえば、実際にその場所に居住している必要があります)。

今回の兵庫県議会選の事例では、候補者は兵庫県に3か月以上住んではいたものの、途中で引っ越しをし、同一の市区町村に3か月以上住所がなかったため、県議会選の選挙権と被選挙権がありませんでした。
また、播磨町議会選の場合は、そもそも候補者の住民票に記載された住所が町外だったのです。

では、被選挙権がないにもかかわらず、なぜ両者は選挙に立候補できてしまったのでしょうか。
兵庫県議会選の場合、事前審査で候補者の住所に関する要件を満たしていないことを選挙管理委員会は把握しており、候補者にもその旨を伝えていました。しかし、住所に関する要件を満たしていなくても、法的に立候補を阻止することはできず、立候補を受理せざるを得ませんでした。
また、播磨町議会選の場合は、立候補の際、公職選挙法において住民票の提出が義務付けられていないため、候補者が住民票の提出を拒否して立候補届出を提出し、選挙管理委員会はこちらの立候補も受理せざるを得ませんでした。

実は今回の件、過去に起きた被選挙権のない人が選挙に立候補してしまった事例と、少し事情が異なるのです。まずは、過去の事例を振り返ってみましょう。

前回の統一地方選でもあった被選挙権のない立候補

被選挙権のない人が選挙に立候補してしまった事例は、前回の2015年の統一地方選でも見られました。
千葉県議会議員選挙八千代市選挙区に立候補していたある候補者は、以前八千代市長を務めていましたが、市長在職中に収賄事件で逮捕され、実刑判決を受けていた経歴がありました。公職にある間に収賄罪で実刑判決を受けた場合、刑期満了後も10年間は被選挙権がない、という規定があります。
しかし、この候補者は刑期満了後10年を経過しておらず、被選挙権がありませんでした。このことは立候補受理後に選挙管理委員会が行った調査で判明したため、選挙管理委員会は選挙期間中、この候補者を立候補却下とし、その旨を有権者に周知させました。
ではなぜ、立候補受理前に公民権がないことがわからなかったのでしょうか。実は、犯罪歴といったものは選挙管理委員会で事前審査ができず、候補者本人の「公民権が停止されていない」という宣誓書の提出のみで受付を行うことになっているからなのです。

また、極めて珍しい事例では、選挙期間中に候補者の公民権が停止されてしまったというものもあります。さいたま市議会議員選挙南区選挙区に立候補したある候補者は、刑事事件で裁判係争中でしたが、選挙期間中に実刑判決が確定してしまい、公民権が停止され被選挙権を喪失したため、選挙期間中に立候補を却下されています。

今回はなぜ立候補却下できなかったのか

このように2015年の統一地方選では被選挙権のない候補者に対し、選挙管理委員会は立候補を却下して、このことを広く有権者に周知させました。
しかし、今回の兵庫県議会選や播磨町議会選の事例では、立候補却下が行われず、それどころか、候補者の被選挙権がないということが有権者に周知されることはありませんでした。では、なぜ今回はこのようなことになったのでしょうか。

立候補却下の根拠は、公職選挙法によります。ここでは立候補却下のための条件として、同一期間の他の選挙にも立候補していること(重複立候補)が分かった場合や、犯罪によって公民権が停止されていることが分かった場合などが規定されています。

しかし地方議会選において、候補者が継続して居住しているという条件が満たされていない場合については、立候補却下の規定がないため、立候補を却下することができないのです。
また、過去に「被選挙権がないことを選挙管理委員会が告知するのは、問題がある」という判決があったため、選挙管理委員会側から、この立候補者に被選挙権がないことを周知させることもできませんでした。

なお、以前は重複立候補や犯罪によって公民権が停止されていることが分かった場合にも、立候補を却下することはできませんでした。しかし、これによって様々な弊害が生じたため、法律等が改正されて立候補が却下できるようになった、という経緯があります。
今回の事件をきっかけに、候補者が継続して居住しておらず、被選挙権がないということが誰の目にも明らかであった場合、選挙管理委員会が立候補を却下できるよう、法律等が改正される動きが見られるのか、今後注視したいところです。