酒に酔って人を殴る人間は一体どんな思考回路をしているのか 傷害事件での裁判で被告人が見せた酒への偏愛

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「もう飲まない」って言えよ!

傷害と公務執行妨害の罪で裁判を受けていた西岡兼司(仮名、裁判当時23歳)は、まだ大人になりきれていないような幼さの残る顔立ちでしたが、建設業の会社を営む経営者でした。未成年時には前科があります。それでも、高校中退後に建築関係の会社に就職した後、若くして独立していました。

彼が事件を起こした原因は酒でした。

深夜2時、彼は酒を飲みに行った後で一人で松屋に入店し、その後すぐ隣の席に座っていた面識のない女性に絡みはじめました。その様子を見ていた他の客は彼を制止しようとしました。彼はその客にいきなり殴りかかり顔面を何十発も殴りました。被害者は鼻骨骨折など全治1ヶ月の重傷を負いました。その後駆けつけた警察官によって彼は交番に連行されましたが、今度は交番でも警察官に殴りかかり公務執行妨害も重ねてしまいました。

「何も覚えていません」

何度も法廷でそう言っていましたが無理もありません。事件前日の夕方から酒を飲んでいた彼の酒量は「だいたい3、40杯くらい」でした。

「休みの前日にはいつもこのくらいの量を飲んでいて、記憶がなくなることもたまにはある」

という彼は「酒を飲んでケンカをするのは初めてです」と話していました。何十発も顔面を殴る、という犯行を今まで酔ってケンカをしたことがない人間がするとはあまり考えられません。その点は検察官も厳しく追及していました。

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――同じようなこと、今まで一回もしたことないんですか?

「ないです。覚えている範囲では。」

――防犯カメラ映像を見ると何十発も、時間にして10分近く被害者を殴ってます。初めてだとは思えないんですけど、これまで一回もしたことない人がなんで突然こうなったのかな?

「飲みすぎていたので…」

――飲み過ぎてても普通、人を殴らないですよね?

「あの…飲み過ぎてて…」

――被害者に落ち度はあると思いますか?

「ないです」

――警察署での取調であなたはこう供述してます。『正直、僕が何の原因もなく殴るとは思えません。多分、相手が暴言を吐いたか煽ってきたんだと思います』。もう一度聞きます。被害者に落ち度はあると思いますか?

「…相手にはないです」

――警察官も殴ってますけど、自分のしたことどう思いますか?

「申し訳ないです」

――それだけ? 自分のしたことがありえないことだって自覚してください。いきなり殴られたら相手はどう思う?

「怒ると思います」

当然、今後の彼の酒との関わり方についても質問は及びました。

――そもそも何でこんな量のお酒飲むんですか?

「仕事の付き合いです」

――やむをえないんですか?

「はい」

――断れないんですか?

「はい。でも今は量は抑えて飲んでます」

――お酒をやめることはできないんですか?

「できないです。仕事の付き合いなので…気をつけてます」

――『お酒で失敗してるからソフトドリンクにさせてください』とか言えませんか?

「……」

――じゃあ何に気をつけてるの?

「飲む量を控えてます。コントロールします」

――事件起こした時、コントロールできてなかったですよね? コントロールしようと思ってコントロールって出来るんですか? 出来なかったから今ここにいるんじゃないの?

「…お酒を減らします」

事件の程度にもよりますが、このような酒が原因で事件を起こした被告人はたとえ本心でなくとも法廷では「酒はもう飲まない」と言ったりします。かたくなに「やめる」と言わない彼は正直と言えば正直ですが、被害者の立場に立ってみればここまでのことをしておきながら嘘の一つもつけない彼の態度には許しがたいものがあると思います。

被告人質問の最後に裁判官は念を入れて確認していました。

「あなたは従業員10人を抱える会社の経営者です。責任のある立場です。先程検察官にも聞かれてましたがもう一度質問します。今後、何に気をつけて生活していきますか?」

彼の答えはやはり変わりませんでした

「酒を減らして生活します」

(取材・文◎鈴木孔明)