長崎大 禁煙の取り組み <喫煙者不採用>個人の権利 侵害懸念 <大学病院>敷地外も禁止 申請へ

「禁煙実践病院」を掲げる長崎大学病院=長崎市坂本1丁目

 長崎大が禁煙に積極的に取り組んでいる。2019年度の教職員募集から喫煙者は採用しないことを決め、大学病院は2008年から敷地内を全面禁煙にしている。ただ「喫煙者不採用」は、たばこを吸う「個人の権利」を侵さないかと懸念の声が聞かれ、「敷地内禁煙」も敷地外での喫煙につながっているとして近隣住民から苦情が寄せられている。喫煙対策の難しさが浮き彫りになった二つの問題を考えたい。

 ■喫煙者不採用 個人の権利 侵害懸念

 5月上旬、長崎大の文教キャンパス。バイク置き場の片隅に置かれた喫煙所で、数人の教職員や学生がたばこを手に談笑していた。喫煙者の不採用について尋ねると「時代の流れだから仕方がない」と男性職員。ただ「朝に吸うのがくせになっていてね」と禁煙には自信がなさそうだった。

 同大は受動喫煙防止などを理由に喫煙者の不採用に踏み切り、現職の教職員にも禁煙を促す。調漸(しらべすすむ)保健・医療推進センター長は「学生の規範となるべき教員が喫煙するのはふさわしくない」と説明する。

 労働問題に詳しい星野宏明弁護士(東京)は過去の判例を基に「喫煙の自由はあらゆる時、場所で保障されなければならないものではない」と指摘。「たばこには受動喫煙の危険性があり、学生の健康増進が目的なら一定の合理性があると思う」と述べる。

 一方、長崎総合科学大の柴田守准教授=法学=は、個人が幸福を追求する権利を尊重するよう求めた憲法13条を「侵害する恐れがある」と懸念する。「たばこは合法。自宅などプライベートな空間での喫煙まで制限していいのか。例えば、航空会社がパイロットに搭乗前日の飲酒を禁じるのは業務に直接影響があるからだ」と説明する。

 憲法に詳しい山下肇弁護士(長崎市)は「長崎大は国立大学法人が運営し、公的機関の側面が強い。教職員のプライベートな行動の制限には、もっと抑制的であるべきではないか」としている。

 ■大学病院 敷地外も禁止 申請へ

 「病院敷地外の通路で多数の出入り業者が喫煙している。敷地内禁煙の影響で地域住民が困っている」「保育園近くの(民間の)喫煙所で病院職員や患者らが喫煙しており、子どもの受動喫煙防止に問題がある」

 今年3月、同病院のホームページの意見投稿サイトに2件の苦情が寄せられた。同病院は2008年に敷地内を全面禁煙にしたが、職員、入院患者、出入り業者らが敷地外で喫煙するようになり、毎年のように苦情が寄せられているという。

 近隣の保育園園長は「結局、敷地内で吸っていた人が外に流れてきただけ。園児らの健康被害も心配」と話す。70代女性は「たばこの吸い殻のポイ捨てが多い」と眉をひそめる。

 病院側は貼り紙などで敷地外喫煙を控えるよう呼び掛けているが、「入院患者や業者に徹底させるのは難しい」という。

 一方、職員の喫煙率は毎年減少傾向にあり、昨年末時点で6%。今後は職員に対して、たばこやライターなど喫煙関連具の持ち込みと就業時間中の喫煙を禁止し、20年をめどに「タバコフリーホスピタル」を目指すという。さらに近隣の自治会と協議し、長崎市の「ポイ捨て・喫煙禁止条例」の罰則対象区域に病院周辺一帯を加えるよう申請する意向だ。

 中尾一彦病院長は「敷地内禁煙を推進すればするほど、敷地外の喫煙につながる可能性は否めない。自治体などと連携して、問題解決に取り組みたい」としている。

長崎市内の喫煙所でたばこを吸う男性(本文とは関係ありません)

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