初開催のTCRジャパンシリーズ参戦ドライバーたちの感想は「楽しい!」。2クラス制も好評

 5月18〜19日、全日本スーパーフォーミュラ選手権の併催レースとして、TCRジャパンシリーズ第1戦オートポリスが開催された。ひさびさに日本に戻ってきたツーリングカーのスプリントレースに、参戦ドライバーたちはどんな感想をもったのだろうか? 何人かのドライバーに話を聞くと、おおむね「楽しい!」と高評価が戻ってきた。また、この開幕戦では新しい“可能性”も見えている。

 TCRジャパンシリーズは、近年WTCR世界ツーリングカーカップをはじめ、世界各国で流行している市販ツーリングカー規定のTCRを採用した新たなツーリングカーレース。WTCR、地域シリーズが5、国内シリーズが16とTCRは現在まさに世界中に広がっているのだ。

 そんなTCRジャパンシリーズの開幕ラウンドとなるオートポリス戦には、15台が参加。シリーズの特徴として土日それぞれで別のドライバーが参加できる『サタデーシリーズ』、『サンデーシリーズ』という開催方式を採っているが、第1戦オートポリスには両戦とも同じドライバーが参加している。

 また、このレースにはFIAドライバーカテゴライゼーションのうち、シルバーとブロンズのドライバーが参戦できるが、いわゆるジェントルマンドライバーであるブロンズ向けに『ジェントルマンクラス』が設けられ、総合順位とは別に表彰される仕組みとなっている。なお、第1戦にはシルバーが5台、ブロンズが9台参戦していた。

■開幕らしい“ドラマ”が多かったシルバードライバーたち

 今回サンデーシリーズで優勝した金丸ユウ(TEAM GOH MODELS/ホンダ・シビック・タイプR TCR)は、チーム自体の参戦決定が直前だった上に、参戦の打診をもらったのはなんと5日前だったという。「(チームゴウの)郷和道さんと直接面識はないのですが、郷さんの知り合いの方から急に電話がかかってきて。ちょうど僕の誕生日だったので、なかなか大きなバースデープレゼントをもらいましたね(笑)」と金丸。

 急遽の参戦かつ初めてのハコ車経験だったと言うが、これまでジュニアフォーミュラで世界と戦ってきた金丸だけに、専有走行だけでアジャストしたのはさすがといったところだ。

 金丸にTCRジャパンシリーズついて聞くと、「どのレースも、オーガナイザーがどれだけ頑張って盛り上げるかだと思うのですが、このTCRジャパンはJRPさんがすごく力を入れていると思います。今後すごく大きくなるのではないでしょうか」と好感触を得た様子。「次戦出られるのであれば、もっと煮詰めてドライでもウエットでも、楽な展開で走れるようにしたいです」と金丸。

 一方、サンデーシリーズでポールを獲得しつつも、ミッショントラブルで悔しいリタイアに終わった篠原拓朗(Hitotsuyama Racing/アウディRS3 LMS)は、ピレリスーパー耐久シリーズでアウディをドライブしておりTCRの経験は多いが、やはりスプリントでは別の印象を感じたようだ。

「ツーリングカーのスプリントは初めてですが、やっぱり楽しいですよね。スタート直後の攻防はS耐では経験できません。フォーミュラともまた少し違った戦い方、走り方が必要です。バトルはすごく勉強になるし、楽しかったです」と篠原。

 スポーツランドSUGOでの次戦も出場予定の篠原は、2位/リタイアだった悔しさを晴らしたい様子。「富田(竜一郎)さんにも電話でアドバイスをもらい、ドライでもレインでも良くなってきました。今度はふたつ勝って、笑顔で終われるようにしたいです」

TCRジャパンシリーズ第1戦オートポリス サンデーシリーズの表彰台
TCRジャパンシリーズ第1戦オートポリス 表彰台

 フォルクスワーゲン勢では、松本武士(Volkswagen 和歌山中央RT with TEAM 和歌山/フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)がサンデーシリーズで3位に入った。松本もS耐でTCRの経験があるが、パーツが届かず土曜までは苦戦。日曜に加えたセット変更で追い上げをみせた。

「僕たちのチームはフォルクスワーゲン和歌山中央のディーラーメカニックたちで臨みました。まだサーキットに来たことがなかったようなスタッフもいたので、そのなかでこうして表彰台という結果を残せたので、いい週末になったのではないでしょうか」と松本。

「当初はもっとジェントルマン向けのレースと思っていましたが、思いのほかハイレベルでした(笑)。ちょうどシルバーとブロンズ同士で、いい関係のバトルができる状況だったのではないでしょうか。参加する方も面白いと思いますし、観る側もツーリングカーならではの接近戦を楽しめると思います。これから盛り上がると思いますね」

 一方で、国内トップカテゴリーで豊富な実績を誇る密山祥吾(埼玉トヨペットGreenBrave/フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)は車両到着が第1戦の直前に。到着した横浜の本牧ふ頭から直接オートポリスまで輸送され。現地で準備を整えた。

 埼玉トヨペットの初めてのメカニックたちもおり、トラブルもあったなか追い上げをみせたが、「今回いろいろ気づいたことも多かったですし、次戦からはきちんと戦えると思っています」と次戦以降の巻き返しを誓った。

 S耐にいち早くゴルフを導入した経験をもつ密山は「ジェントルマンがをすごく楽しんでくれていますし、上位はレベルも高い。とても楽しいシリーズになると思いますね。これからどんどん盛り上がっていくのではないでしょうか。今後20台近くになるのではないかという話も聞いていますよ」とTCRジャパンの今後について語ってくれた。

密山祥吾(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)

■ブロンズにも好評。シルバーの若手は今後世界への扉にも……!?

 その密山が代表を務めるAdenauは、昨年までS耐で使用していたゴルフGTIをTCRジャパン向けに転用し、ジェントルマンの佐藤潤を走らせた。

「初めてのTCRジャパン、初めてのオートポリス、そして初めてのウエットでした(笑)」と学ぶことが多かった佐藤だが、「楽しくなった頃には帰らなければいけない感じでしたね。もっと練習しなければいけません」2日間のレースを大いに楽しんだ様子だ。

「シリーズもすごく楽しいと思います。皆さんスーパー耐久に出られている方ばかりで、プロに近いジェントルマンの方も多かった。そんな皆さんと走れたのはすごく良かったですね」

 今回、ゴルフGTIをHIROBONが、アウディを植田正幸が走らせたバースレーシングプロジェクト【BRP】も、S耐でTCR車両を走らせているチーム。HIROBONが「すごく面白かったですよ。バトルも多かったですし、レベルも高いですね」と語れば、植田も「レベルはすごく高いですよね。みんなしっかり走り込んでいますし。日本でこうしたハコのスプリントはなかったですから、良いのではないでしょうか」と評する。

 ちなみに植田は、ジェントルマンクラスの“戦い方”にもリクエストを述べている。接触しながらのバトルもツーリングカーの醍醐味だが、あまりに接触が多くなっては、いかにジェントルマンといえど負担が多くなり、シリーズへの意欲が薄れてしまう。

「上位陣はやってくれてもいいかもしれませんが、WTCRのように“当てていい”にならないようにしないといけませんね。ジェントルマンのレースですから。今は当たりそう……で引いていますが、そういうのもレースですよね」

 ドライバーたちからの評価も概ね高かったTCRジャパンシリーズの開幕ラウンド。当然ながら課題もあるが、密山のコメントにもあるとおり今後台数の増加も見込まれており、大きな発展が期待できそうだ。

 また、今回金丸や篠原といったジュニアフォーミュラでも評価されるシルバードライバーたち、松本のようなツーリングカーで速さをみせてきたドライバー、密山のようなベテランのシルバーたちが数多く参戦すれば、シリーズ全体の盛り上がりもさらに期待できる。

 そして、彼らのようにジュニアフォーミュラで育った若手ドライバーたちや、ハコで台頭してきたドライバーたちが今後TCRジャパンで経験を積み速さを示せば、いまや多額の資金が必要になる上位フォーミュラに進めなくとも、同じヨコハマを使う『WTCR』という、新たな“世界へのフィールド”が開かれるかもしれない。

 WTCRは毎年日本でも開催されるが、やはりそこに欲しいのは、世界と戦う地元のスター。今まで日本ではツーリングカーならではの動きを知るドライバーは少なかったが、TCRジャパンはそのスターを生む素地にもなり得る。実際、海外では他のTCRシリーズからWTCRにステップアップしているドライバーも数多いのだ。

 過度なメーカー間の競争によりシリーズが消滅したJTCC全日本ツーリングカー選手権以来となる、日本におけるツーリングカーのスプリントレースは、TCRという魅力的な車両フォーマットとともに、若手ドライバーにもジェントルマンドライバーにも新しいフィールドを創造したと言えるのではないだろうか。

TCRジャパンシリーズ第1戦オートポリス サンデーシリーズのジェントルマンクラス表彰台
TCRジャパンシリーズ第1戦オートポリス ジェントルマンクラスの表彰台
佐藤潤のフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR
ジェントルマンクラス3位となったHIROBON
 

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