「令和」初となる2019年春の褒章受章者が20日、発表された。芸術分野などの業績をたたえる紫綬褒章に歌手の石川さゆりさんが選ばれた。デビューから46年。いつ聞いても、だれの心にも〝ぐっ〟と響く曲を歌い続ける石川さんの今の心境、その気構えを知りたくて記者会見でやりとりを聞いた。あの「天城越え」を情念放つように歌い、最後に手を伸ばすシーンに込めた石川さん自身の思いが分かるような気がした。(共同通信=柴田友明)
▽「年を重ねて輝く」
―大ヒットした「津軽海峡・冬景色」「天城越え」。時代が変わっても色あせず、石川さんの代表曲としてずっと人々に親しまれてきたこの2曲への思いを教えて下さい。
「そうですね。津軽海峡・冬景色は私が18歳の時に、アルバムの中におさめたものを19歳になるときにシングルカットして皆さまにたくさん聴いていただきました。天城越えは28(歳の時)だったかな。でも今も変わることなくカラオケで歌っていただいてその上位にあるようで(歌を)愛してくださることへのうれしさと、何かそこで歌が過去にならないようにちゃんと歌っていきたいと思っています」
「(作詞家の)阿久悠先生がお元気だったときにおっしゃっていたのは『歌い手というのはその歌がヒットしたときに一番輝く。でも、石川さゆりの歌を書いていて何が面白いかというと、ヒットした時に一番輝くんだけれど、その後、歌が成長する。その都度、年を重ねるにつれてまた歌が違った輝きを持ってくるのが書き手としてうれしいと』言ってくださったことがとても励みになりました。歌というのは歌い方を変えるのではなく、自分が生きて体の中から出していく中で少しずつでも成長して変化する歌詞とメロディ。それが届けられたらいいなと思っています」
▽「そんな女の人どこにいますか」
―時代に寄り添う歌と言われましたが、(石川さんが)歌い始めたころと現代とは、女性像もいろいろ変わってきたと思います。個人的には耐え忍ぶ女性の気持ちを歌った演歌も醍醐味だと思うところもありますが、これから先も大切にしたい女性らしさとか教えていただきたい。
「女性をテーマにですか、耐え忍ぶとか、三歩下がってとか言われますけれど、今そんな女の人がどこにいますか、渋谷の交差点見た時に思いますけれど(笑い)。『津軽海峡・冬景色』の歌詞で『さよならあなた 私は帰ります』、この1行が当時としてはものすごく画期的な言葉だったんです。それが40年過ぎて、もうあの歌詞、そんなの今は当然だろうという(時代になっている)気がします。でも、日本人が持つ思いやる気持ち、慮る。そういうニュアンスは大事にしたい。すべてを言葉では言い尽くさない。だから、歌の中でも行間の中で、皆さんが自分の中で詩を完成させてくださる。『だから、そうなのよ。分かるわ』と思ってくださる、何かそういう歌を歌いたいですね」
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「何かいつもと雰囲気が違うんですけれど…」。昭和、平成、令和と歌い続けてきた大歌手は会見場で気恥ずかしそうに笑った。紫綬褒章について「デビューして今まで歌ってきたことが間違っていないぞと、はんこを押してもらったような」と語った彼女の感想はとても印象的だった。