「やったもん勝ちだから」ロッテ5年目・香月の心に響いた福浦のアドバイス

インタビューに応じたロッテ・香月一也【写真:佐藤直子】

高校時代の先輩、森の手厳しい言葉にも発奮「マジ悔しいです」

 今季はチームスローガンに「マウエ↑」を掲げ、2010年以来9年ぶりの日本一を目指すロッテ。混戦模様のパ・リーグだが、ロッテは5月に勝率を5割に戻すとAクラスをキープし、首位奪取へ好位置につけている。

 投手陣では、3年目の種市篤暉、5年目の岩下大輝ら若手ホープが1軍で活躍する中、1軍昇格を今や遅しと2軍で研鑽する野手がいる。2軍から真っ直ぐ「マウエ↑」への躍進を目指すロッテ若手スターをご紹介する連載企画。2019年の第2回は、5年目の香月一也内野手に迫る。

 ◇ ◇ ◇

「マジ悔しいですけど、事実なんで何も言えないです」

 高卒5年目の今シーズンも開幕1軍を逃し、2軍に甘んじている香月一也に対し、容赦なく手厳しい言葉を投げかけてくる人物がいるという。大阪桐蔭高の1年先輩、森友哉(西武)だ。香月が高校2年の時には「ずっと付きっきりで、自主練も一緒にさせてもらっていた」という森は、中村剛也、平田良介、中田翔、浅村栄斗と続く“大阪桐蔭フルスイングの系譜”を教えてくれた人物。「当てる技術を覚える前に、思い切りバットを振ってスイングを確認した方がいい」。高校時代、こうアドバイスをくれた先輩は昨季、打てる捕手として西武をリーグ優勝に導いた。

「刺激になりますね。メチャクチャいい先輩で、調子が悪い時は電話させてもらったり、ご飯にもよく一緒に行ってもらったり。そこでいろいろ話をして自分のモチベーションにしています。でも、いつも茶化されるんですよ。『まだ1軍じゃないの?』とか『もういいっしょ、お前。もうクビや』とか。それは、マジ悔しいです」

 今年は同学年が大卒1年目として入団してきた。「だいぶ意識しますね。正直、危機感はあります」という23歳は、少しでも出番とアピールする機会を増やすため、本来の内野に加え、昨季から外野守備にも就いている。

2018年から福浦の自主トレに同行「本当に勉強させてもらってます」

 危機感を抱いているからこそ、何があっても後悔のないように、自分がやれることはやり尽くして1日を終えるようにしている。がむしゃらに、ただ量をこなすだけの練習ではない。考えながら、工夫をしながら、技術を磨く。その姿勢を教えてくれたのは、2018年1月から自主トレに同行している福浦和也選手兼2軍打撃コーチだ。

「田村(龍弘)さんに『福浦さんの自主トレに来いよ。俺が言ってやるわ』って誘われて、福浦さんに聞きにいったら『いいよ』と。福浦さんはランニングとかウエイトとか、しっかりしますね。あの年齢でメチャメチャ走るんです。足が速いとかじゃなくて、とにかく走る。自主トレ期間は本当に勉強させてもらってます。

 福浦さんに言われて一番響いたのが『やったもん勝ちだから』という言葉。練習はやったらやったらで、その分、絶対に何か自分に返ってくる。やらなかったらやらなかったで、その分が返ってくるって。量を増やすのではなくて、内容を濃くする。ただ1時間バットを振りましたじゃなくて、考えながら練習をしなさいって言われました。自分の中で響きましたね」

 それまで打撃の調子が落ちれば、ただマシンに向かって打つ練習を重ねていたが、福浦のアドバイスをもらって以来、同じマシンを使った打撃練習でも打ち方を変えたり、あるいはウエイトトレーニングでの負荷を変えてみたり、頭を使って練習内容を濃くする工夫を重ねている。これに合わせて、野球に取り組む日々の姿勢にも変化が現れた。

「自分の調子に流されないようにしています。自分が打てても打てなくてもチームが勝つことが大事。去年まで、ぶっちゃけ当たり前のことができていなかったんです。自分が打ったらベラベラ喋って、打てなかったら『ハァ…』って無口になる。打てなくても、しっかり切り替えて声を出す。当たり前のことを疎かにしないようにしています」

 今季から2軍打撃コーチを兼任する福浦が、常に手本として身近にいる影響は大きいかもしれない。「福浦さんは本当に何でも聞ける存在。困った時はすぐに質問させてもらっています。怒られることもありますけど」とバツが悪そうに笑うが、森にせよ、福浦にせよ、香月が先輩に恵まれたことは間違いないだろう。

昨春に左手負傷、復帰後に井口監督から期待の声も「まだ応えられていません」

 4歳上の兄の影響で、物心ついた時からバットとボールを手に持っていた。少年野球チームに入ったのは小学1年生の時。中学生になり、ボーイズリーグでプレーするようになった頃には、すでにプロを目指していた。ボーイズリーグの監督に「本当にプロに行きたいんだったら、大阪で自分の実力を試してみるのもいいんじゃないか」と勧められ、地元・福岡を離れて大阪桐蔭高に入学。3年には藤浪晋太郎(阪神)、2年には森がいた。

「マジでこの人達、レベルが違いすぎるってショックでした。早く福岡に帰りたいなって思ったけど、帰る根性がなかったです(笑)。中学まではピッチャーで三振も取ったし、打てばホームラン。あんなに上手くいっていたのに、こんなに野球って楽しくなくなるんやって、完全に挫折しました」

 だが、慣れない寮生活で親の有り難みを感じながら、「僕らの代は桐蔭史上最高に弱かったです(笑)」という同期の仲間と「自分たちの代で甲子園に出よう」と奮闘。代替わりした秋の大会では履正社にコールド負けと惨敗したが、3年の夏に甲子園出場、見事優勝を掴んだ。

 時間を早送りして、時は2018年3月。開幕1軍を目指し、必死に春を過ごしていた香月は、法政大学との練習試合で二塁にスライディングした際、左手母指の靱帯を損傷してしまった。全治4か月の宣告に「あ、終わったなって思いました」。だが、リハビリを担当してくれた望月トレーナーの支えもあり、怪我をバネに復活しようと決意。地道なトレーニングの結果、予定よりも早い6月に実戦復帰。11月の台湾ラミゴ戦では打撃でアピールし、井口監督から期待の言葉をかけられた。

「秋に監督がいろいろと言って下さって、来年頑張ろうってやってきた。でも、いまだに1軍に呼ばれていないので、まだ監督の期待には応えられていません。『いつでも呼んでください』って思ってますけど、呼んでもらえるまで2軍でバンバン打ちまくります」

 勝負をかける今年。「桐蔭史上最高に弱かった」と自認する同期と甲子園優勝を勝ち取った時のように、香月はまた、勝負強さを見せつけてくれるはずだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

© 株式会社Creative2