混迷NPT 準備委リポート(下)<機運>市民の声は届くのか

平和首長会議主催のイベントで活動を紹介したナガサキ・ユース代表団のメンバー(右上の2人)や広島の高校生ら=2日、米ニューヨークの国連本部

 2020年核拡散防止条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会で1日、非政府組織(NGO)が、演説する場が設けられた。平和首長会議会長の松井一実広島市長と副会長の田上富久長崎市長に加え、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)など国内外の十数組が核廃絶などを訴えた。
 各国大使らは議場で演説を聞いていたが、特段の質問や意見は出ないまま終了した。NGOの訴えが大使らの心にどこまで響いたかは、うかがい知れない。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授は「せっかく演説の時間が確保されているのに、双方向の議論になるような工夫がNGO側にあってもいい」と指摘する。
 準備委会場の米ニューヨークの国連本部では、日本メディアの姿ばかりが目立った。平和首長会議の関係者は「現地メディアはほとんどいなかった」と振り返り、「伝統的に米メディアは軍縮問題をあまり取り上げない。情報が広がらないことが、軍縮が進まない一因という指摘もある」と不満を漏らす。
 20年再検討会議に向け、軍縮への機運をどう高めていくか。一つの鍵は市民活動の広がりだ。準備委では一筋の希望の光が差す場面もあった。
 1日の演説では、県と長崎市、長崎大でつくる協議会が派遣した「ナガサキ・ユース代表団」や、米欧などの若者による複数の反核団体が一緒に原稿を起草し、代表者が「(核軍縮を巡り)核保有国と同盟国は政治的意思が欠けている」「目を覚まして」と訴えた。
 ナガサキ・ユース代表団のリーダー、中島大樹さん(21)=長崎大多文化社会学部4年=は「各国の若者団体同士でネットワークをつくる動きが出てきた」と収穫を語る。フェイスブックでグループをつくり、情報を共有する取り組みが始まった。今後は活動面でも連携したい考えだ。
 準備委では20年再検討会議の議長にアルゼンチンのグロッシ大使が決定した。グロッシ氏は10日、準備委最終日のあいさつで、現在のように各国代表の外交官だけではなく、原子力企業関係者や研究者、市民社会の意見を広く聞き、若者世代の役割なども議論したいと抱負を述べ、核軍縮に向け積極的な姿勢を示した。
 核保有国と非保有国の対立は続き、20年再検討会議で核軍縮へ何らかの合意に至るかどうかは不透明だ。各国の“本気度”とグロッシ氏の手腕、そして市民社会の力が問われている。

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