巨人菅野、不調の要因は…データから分析、カウント球に課題?

巨人・菅野智之【写真:Getty Images】

15日阪神戦で自己ワーストの10失点。2ストライクでの投球が減少傾向

 球界のエース・菅野智之(巨人)に異変が起こっている。ここまで8試合の先発で、53回2/3を投げ30失点。防御率は4.36。昨季14本だった被本塁打が、今季はすでに13本を数えるなど、かつてないほどの不調に苦しんでいる。菅野に一体何が起こっているのだろうか。昨季との違いをデータで整理してみたい。

 一般的に打者は2ストライクに追い込まれるかどうかで成績が大きく変わってくる。出塁率と長打率の和で、総合的な攻撃力を示すOPS(On-base plus slugging)をカウント別に見ると、0ストライク時は1.010、1ストライク時は.915と非常に打者が有利だが、2ストライクになると.509まで低下。一気に投手が有利になる。

菅野の3球目以降の投球を行ったときのカウント【画像提供:DELTA】

 その前提を踏まえたうえでイラストを見てみよう。この図は菅野の投球がどのストライクカウントで行われることが多いか、その割合を示したものだ。初球、2球目に2ストライクからの投球はないため、すべてのストライクカウントが起こりうる3球目以降に限定して比較している。

 過去3年間、菅野の2ストライクでの投球割合は62~63%の間で推移している。今季のNPB平均は56.2%。昨季までの菅野は、他投手に比べ投手有利な状況で多くの投球を行うことに成功していたようだ。

 一方、今季の菅野はこの2ストライクでの投球割合が55.5%にまで低下。投手有利のカウントで投球することができていないことがわかる。

ストレートのコース分布図【画像提供:DELTA】

厳しいコースへの投球が招いたカウント悪化

 菅野に何が起こっているか、2ストライクでの投球が減少しているというデータから2つの可能性が考えられる。1つは早いカウントで打球を前に飛ばされ、2ストライクまでたどり着く打席が少ない可能性。もう1つはボール球が増え、2ストライクにたどり着くまでの球数が増えている可能性だ。

 2つのうち今季のケースは後者に該当しそうだ。0・1ストライクでの投球のボール割合は過去3年間32.4%だったが、今季は36.1%にまで増加。カウント球がうまく機能していないようだ。

 カウント球に注目したとき、特徴的な結果が出ているのがストレートである。ストレートは菅野が0・1ストライクで投じる割合が最も高い、代表的なカウント球である。図はその菅野のカウント球としてのストレートがどういったコースに多く投じられたかの分布を表したものだ。投手の目線でストライクゾーンを見ており、赤色が濃いほどに高い割合で投げられたことを示している。

 菅野がストレートを投げるとき、捕手は一塁側のコースに構えることが多い。右打者の外角、左打者の内角である。このせいもあって分布を見ると、昨季と今季ともに一塁側のコースへの投球が多い。しかしよく見比べると、昨季のストレートは最も濃い赤色が真ん中を超えるあたりにまで侵入している。外角だけでなく、ゾーンの真ん中周辺への投球も多かったようだ。一方、今季は一塁側のゾーン境目周辺に最も濃い分布が集中。今季のほうがより細かく制球できている印象だ。

 厳しいコースに投げ込めているのは一見悪くない傾向にも感じる。しかしこれはあくまでもカウント球である。ここまで厳しく投げこむ必要はないのかもしれない。結果としてこのカウントでのストレートのボール割合は、昨季の30.5%から37.9%に上昇してしまった。

 また同じように、カウント球でのツーシームは32.3%から38.7%へ、スライダーは30.3%から34.0%までボール割合が上昇している。ストレートを含めた3球種は菅野の0・1ストライク時の投球の大半を占める球だ。これらの球によるボール増加が2ストライクでの投球割合低下を招いたようだ。

厳しいコースに投げざるをえなかった可能性?

 ただこれらのデータは、菅野がカウント球を厳しいコースに投げすぎなければ不調が解決するということを示しているわけではない。菅野が厳しいコースに投げていたのはそうせざるをえなかったという可能性もある。どういうことだろうか。

 今季の菅野のストレートはバットに当てられるケースが例年より多くなっている。ストレートのコンタクト率(スイングされたうちボールに当てられた割合)は、2016年から昨季まで78.3%→78.9%→78.9%と推移してきたが、今季は86.4%まで上昇した。

このように以前ほど空振りが奪えなくなっているストレートをカウント球として甘いコースに投げれば、当然痛打を浴びることも多くなるだろう。そこで痛打を避けるため、より厳しいコースに投げ込まざるをえなかったという可能性は考えられる。

 今回の分析では菅野不調の根本的な原因を特定するにまでは至っていない。ただそれでも2ストライクでの投球割合が減少しており、カウント球がうまく機能していないのは事実である。次回の登板で、カウント球がどのようなコースに投げられるか、またそれらの球で2ストライクにどれだけ持ち込めるかは注目したいポイントだ。(データはすべて2019年5月15日終了時点)DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1・2』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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