すそ野を広げ、人命救助や減災に活用したい~呉市安浦町で防災ドローン講習会

豪雨災害で甚大な被害を受け、いまだ復旧途上の呉市安浦町市原地区で「防災ドローン講座」が開催された。

会場は市原老人集会所。発災時、土石流がわずかにそれたことで難を逃れ、避難所となった建物だ。市原地区自治会長の中村正美さんと地域住民のほか、防災・災害復興団体のメンバーなど全25人が参加。ドローンの法規制や活用事例を学んだ後、実技指導でドローン飛行を体験した。

呉市安浦町市原地区の被災地。中央の建物が市原老人集会所。
主催は「広島県防災ドローン研究会」。代表を務める伊達富美さんは、広島市安芸区矢野在住の防災士。「災害で生活が変わった子供を支援する会」代表も務めている。

講座に先立ち、伊達さんは「豪雨災害直後の昨年8月、『ドローンにはさまざまな可能性がある』と思いました。発災時にドローン画像を見て『今、こんな状況だから避難しましょう』と言えたら、人的被害が減るかもしれません」とあいさつ。

午前中は土地家屋調査士の山中匠さんと、慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム 南政樹副代表による講義が開催された。

Office Yamanaka代表の土地家屋調査士、山中匠さん(日本土地家屋調査士会連合会研究所 研究員)は、広島市安佐北区在住。2014年に大規模土砂災害が起こった地区でもある。山中さんは、災害を機に測量会社が災害復興にドローンを使い始めたのを知り、ドローンに注目していた。仕事で境界の問題を扱うことから、2016年から調査や測量にドローンを使用している。

「ドローンはいままで不可能だった『鳥の目線』が可能。現場でドローンを飛ばせばすぐ分かることもあり、災害時に大きな有効な可能性があるもの」と話す山中さん。

西日本豪雨災害では、発災直後の7月7日に、被害の大きかった安芸郡坂町小屋浦へ赴いた山中さん。それらの経験から、ドローン飛行に関する法規制の要点を、航空法、民法などの法律ごとに説明した。「ドローン飛行は基本的には許可・承認制。逆に言えば『許可・承認制度の趣旨が理解できないままで飛ばすことは本人が想定してなかったような重大な責任を自らが負うことにもなりかねない』ということ」と、ドローン飛行に関する許可・申請の大切さを強調。また、土地の上空に及ぶ「所有権」やプライバシー等「人格権」に関わる問題といった民法を中心とした私法上の権利についての注意点のほか、保険についての解説もあった。

受講生へのアドバイスとして

  • 高度な姿勢制御機能が搭載されていないトイドローンは、テクニックが必要になるので、操縦練習にぴったり。
  • 墜落させても被害のないフライトシミュレーターによる疑似体験をお勧め。
  • 資格試験に挑戦し、基礎力学やバッテリー等の必要な知識を得たほうがよい。航空法、電波法をきちんと学ぶことにつながる。
  • ドローン利用者と同士の情報交換を積極的に。私の場合、Facebookでのつながりができたことはとても良かった。

の4つを挙げた山中さん。ドローンパイロットとして、品位よく、心象よく、マナーを守り安全な飛行につなげることも大切だと考えている。「そうすることで、災害対策におけるドローンの位置付けがさらに高まってくるものと信じています」と講義を締めくくった。

続いて、慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム 南政樹副代表が、ドローンの活用事例や操縦方法について実演を交えながら説明を行った。

南副代表

南副代表は最初に、世界のドローン使用例を紹介。オーストラリアでの実例は、人命救助。溺れている人の近くに、ドローンから浮き輪を投下。救助員はドローンを目標に救助に向かうことができる。サーファーに「サメが来る」と警告してくれるドローンも。地上インフラが整っていないルワンダでは、固定翼ドローンで血液を運んでいて、時速100㎞のドローンで移動して、目的地に荷物を落とす。これらは全てスマートフォンでの操作だという。

国内では、福島県田村市と連携協定を結び、3年前から高校生にドローンを教えている南副代表。消防団員にも操作を学んでもらい、要救助者の捜索に使ってもらっている。防災訓練に呼ばれた高校生が、ドローンを使用して土砂崩れ現場の捜索をしたとき、誰よりも早く、約30秒で要救助者の発見第一報を入れたというエピソードも紹介。

西日本豪雨災害では、発災直後の7月10日、岡山県真備町での「浸水域の土砂面積を計測してほしい」という要請に対応。10月には広島市の似島で、2台のドローンを使い2000カ所の写真を組み合わせた全島の画像を提供した。

「ドローンの可能性の中には、災害に使えるものもあります。これらを活用したいですね。ただ、平時に使えないものは有事にも使えません。趣味で構わないので、『あの桜がきれいだな』『川の様子はどうかな』と思ったら飛ばしてみましょう。日常から操縦していると、何かが起きた時にすぐ対応できる。そのことが人命を救ったり、人と人をつなぐ何かの役に立ったりするものです」と語った。

午後からは、集会所前でドローンの実技指導が行われた。

広島県自主防災アドバイザー、広島市防災士ネットワーク会員でもある、防災士の西佐古信夫さんは「久しぶりにドローンを触りますが、災害時にこそ意味のある使い方をしたいですね」と話し、熱心に話に耳を傾けていた。

中村正美自治会長は「ドローン撮影は、愛媛県では稲の生育状況の確認や、消毒等に利用されていると聞いています。また、今日の話を聞いて、被災状況の素早い確認にもつながると思いましたので、今後も注目していきたい」と話していた。

神奈川県藤沢市で「災害時緊急支援復興支援団体チーム藤沢」を率いる下田亮さんは、幅広いネットワークを生かし、貴重な機材を持ち込んでドローン実演や指導を行った。同チームは3年前から全国で被災地支援を行っており、西日本豪雨後は、いち早く藤沢市から広島へ向けて出発し、水などの救援物資を運んだ。広島入りは今回で14回を数えるという。今回の講習会を振り返り「生き残るために自分達で出来る事、自助を行う為の第一歩を踏み出せた」と話していた。

防災ドローン講座には、大学生の他、子どもの参加もあった。

「子どもはメカニックの習得が早いので、子どもにこそドローンの可能性を知り、操作を覚えてもらいたい。防災士さん、消防団員さんなど、いろいろな人たちにまずは市民目線でドローンの可能性を感じてもらい、感じたことを声に出してもらえたら。その声を私が拾い、広げていけたらと思っています」と話す伊達さん。

5月25日には、広島市立矢野小学校にて「ドローン防災ひろば」を開催予定なのだそう。目に触れる機会が増えることが、ドローンの可能性を伝え、防災意識を高めるきっかけとなりそうだ。

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
写真 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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