専門医なのに自分のこととなるとおたおたするだけだった

©株式会社日刊現代

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

【がんと向き合い生きていく】第116回

先日、大腸内視鏡検査を受けたときのお話です。

3週間ほど前から、便通が悪く、便が残っている感じがあって、すっきりしない状態が続いていました。便を軟らかくする薬を飲むと、今度は便が細くなってきた気がします。頭の中ではどうしても大腸がんがあった場合を想定してしまいます。腸を動かす作用がある薬は、がんがあって腸が細くなっていると激痛になってしまう心配があるため、使いにくかったのです。普段よりも食べられず、すぐに腹満感がきます。触った自分の腹には腫瘤はないのですが、結局、消化器内科の医師に診察をお願いして、内視鏡検査の予定を立ててもらいました。

3日後に受けた胃内視鏡検査は問題ありませんでした。次はいよいよ1週間後の大腸内視鏡検査です。

「きっとがんがあるのだろう。手術を長く待たされるのだろうか? こんな便通異常を手術までガマンするのは、患者にとっては大変なことだ。でも、緊急手術しなければならない状況ではない。この落ち着かない態度はどうしたものだ。この意気地なし。怖がり。それでもおまえは医者か?」

そんな思いが頭を駆け回りました。

検査前日、指定されたレトルトの検査食を朝、昼、夕といただきました。前夜9時には水薬の下剤を飲むことになっています。便秘の時は、数滴をコップの水に混ぜて飲みますが、この検査では1本全部飲まなければなりません。自宅から病院までは電車とバスで1時間以上かかります。翌朝の厳しい満員電車を予想すると、尻に自信が持てません。

そこで、病院近くのホテルを予約して夕食分の検査食を食べた後、そこに泊まることにしました。万が一、下着を汚した場合を想定し、替えの下着を用意しました。ほかには脱水予防のペットボトル、サインした承諾書を持って自宅を出ます。

当日の朝は食事なし。それでも、昨夜の下剤で便が出たのは1回だけで、下痢でもありませんでした(結果的に近くのホテルに泊まる必要なしでした)。

8時半、病院の内視鏡室に時間通りに着きましたが、大腸内視鏡検査を受ける患者はなんと12人もいて、私が一番遅い到着でした。男性10人、女性2人。みなさん検査着に着替えて(ズボンは後ろ開き)、ひとつの部屋に集められます。奥さんが付き添った男性は2人いました。

3つの机にそれぞれイスが4脚。壁に向いたカウンターにもイスが置いてありました。机の上には下剤1・8リットルのパックとコップが人数分置いてあり、説明を受けた後に9時ごろから1時間以上かけて全部飲むように指示されました。この下剤を飲んで便をすっかり出し切らないと検査ができません。

壁の時計を見ながら、1回200ミリリットルくらいを約10分おきに飲みました。少し甘いのですが、好きにはなれない味です。ひとつの机に4人が向きあって、パックの残りの印を見ながら下剤を飲み続けます。1時間以上、誰ひとり全く会話もない、ため息だけの異様な時間でした。

やっとすべて飲み終えると、急にトイレに行きたくなりました。男性用トイレは並んで4カ所あり、交代で駆け込みます。便のつぶつぶがなくなって水様になったら、看護師さんを呼ぶことになっています。結局、トイレには6回通いました。

■「がんはない」と言われた瞬間、体から力が抜けた

次は、検査中に何かあった時のために腕から点滴ルートを確保します。幸い一度針を刺しただけで成功しました。

検査を受ける準備を整え、実際に検査室に呼ばれたのは11時ごろだったと思います。横向きになって、肛門から内視鏡が入るのが分かりました。ただ、苦しくもなんともありません。自分ではどこまで内視鏡が入ったか分からないでいましたが、腹部の右側が圧される気がして、「横行結腸を過ぎたかな」と思っていたら、検査医師から「がんのようなものはないですよ」と言われました。その瞬間、体から力が抜けました。

検査後は、夕方に緩下剤を毎日飲むことで腹部の症状は落ち着きました。結局、あの症状は何だったのだろう?

知り合いの女性に検査のことを話すと、「大腸内視鏡ね。私は毎年受けるのよ」と言われました……。がんを専門とする医者のくせに、自分のこととなるとおたおたするだけ。検査だけで、この体たらくでした。

(佐々木常雄/東京都立駒込病院名誉院長)