モデル家族“保護”が招く格差

非正規シングル女性の窮状

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江刺昭子

女性史研究者

江刺昭子

女性史研究者

えさし・あきこ 広島市出身、早大卒。原爆作家・大田洋子の評伝「草饐(くさずえ)」で田村俊子賞。著書に「女のくせに 草分けの女性新聞記者たち」「樺美智子 聖少女伝説」など多数。

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長男と長女を連れて歩くシングルマザーの女性

  働く女性が年を追うごとに増えている。女性の力を活用したいという政府の方針も後押しして、役員や管理職といった指導的立場を目指したり、仕事のやり方や時間配分を自分で決める裁量制を選んだりして、バリバリ働く人もいる。今は働いていないが、働きたいと思っている人も多い。

 一方、非正規で働く膨大な数の女性たちがおり、正規の人との待遇格差が広がっている。

  ▽セクハラ・パワハラ…何でもあり

 2018年の総務省の労働力調査によると、雇われて働いている女性(役員を除く)の過半数、56%に当たる1451万人が非正規。男性は22%、669万人なので、非正規労働の女性は比率で男性の約2・5倍、人数でも2倍を超えている。

 かつて非正規は主婦のパートタイマーが中心だったが、派遣労働の対象業務の自由化が進み、シングル女性が増えた。シングルの理由は、未婚、非婚、離婚などさまざまだが、貧困による深刻な悩みや不安を抱えている人が少なくない。

 横浜市男女共同参画推進協会による「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」(2015年)がある。横浜、大阪、福岡などの都市に住み、非正規職で働く35歳から54歳のシングル女性261人を対象に調べた。

 回答者に共通していたのは、雇用が不安定で労働時間の割に収入が低いこと。雇用契約期間は「3年未満」が7割を超え、週あたりの労働時間は「40時間以上」37・5%、「30~40時間未満」35・6%と、7割超がほとんどフルタイムといっていい働き方だ。それなのに税込み年収「250万円以上」は3割しかなく、「150万~250万円未満」4割、「150万円未満」が3割に上った。年齢が上がれば年収はさらに下がり、45~54歳では3人に1人が年収150万円以下だった。

 自由回答からは悲惨ともいえる姿が浮かび上がる。具合が悪くても治療費が気になって病院に行けない。職場ではセクハラ、パワハラ、いじめ、何でもありだが、クビになるのが怖くて我慢の日々。社会保障も十分でなく、老後の生活も見通せない。

 望んで非正規で働いているのではないかという見方があるが、回答者の多くは正社員として働きたいのに、かなわないというのが実態だった。

 社会問題になったのは、リーマンショックが起きた2008年末。派遣労働者が突然契約を打ち切られ、職も住まいも失って年を越せないとして、東京の真ん中の日比谷公園で炊き出しが行われた。メディアが大きく報じたが、解雇が男性にまで及んで社会の関心が高まったのであって、以前から女性の非正規は多く雇用も不安定だったのに、問題にされなかったのだ。

 ▽低賃金の方がいい人たち

 不本意な非正規労働が女性に多いのは、日本の社会が古くから当たり前としてきた家族観やジェンダー観がある。それを前提に雇用形態や賃金体系、社会保障が組み立てられてきたからだ。

 戦前の女性労働の多数を占めた繊維女工は、家のために農村から工場へ、小学校を終えるか終えないかで、売られるようにして働きに出た。雇い主と契約を結ぶのは本人ではなく親で、親が受け取った前借金を返し終わるまでは、劣悪な環境のもと、小遣い程度をもらい昼夜交代で働かされた。今風にいえばブラック企業である。

 戦後は1950年代から主婦のパートタイマーが目立ち始める。飛躍的に増加したのは74年のオイルショック以降。長い不況で企業が合理化の一環として、労働力をパートに切り替える戦略をとった。住宅ローンや教育費、レジャー費などでかさむ家計を助けたかった主婦と、ニーズが一致したのである。主な働き手は夫だから、パートは低賃金で身分保障もなくて当然とみなされ、戦前からの悪慣行が定着した。

 これをさらに強化・固定化した要因の一つに、1961年に導入された配偶者控除がある。配偶者の収入が限度額以下の場合、所得の多い方の税額が控除される。社会保障もセットになっていて、保険料なしで夫の厚生年金や健康保険に加入できる。

 専業主婦の「内助の功」に報いるという性格が強く、共働きやシングル世帯にとっては不公平感が強い。それだけではなく「低賃金の方が都合がいい」という労働者がいることは、非正規労働全体の賃金引き下げ圧力となっている。

 従来の家族モデルから外れて、男性の稼ぎ手を持たないシングル非正規女性は、手厚い“保護”を受けている人の低賃金に引っ張られて、貧困にあえぐ。非正規シングルに対する賃金引き上げ、家賃支援、最低限の年金保障などの支援を考えるべきだろう。

 子どもや高齢者、病気や障害などで働けない人は別にして、人は働いて生活していくのが当然だと思う。家族があっても、シングルでもそれは同じだ。誰かの扶養家族になるのではなく、一人ひとりが働き、労働に対しては正当な対価が得られるようにするべきだ。

 まっとうに働いているのに生活に困難や不安が生じるなら、そのときには社会のセーフティーネットが機能する。そうしてだれもが自分の足で立ち、歩んでいける。そんな社会にしなければならない。 (女性史研究者・江刺昭子)