『ベイビーレボリューション』浅井健一・文、奈良美智・絵 わたしたちは光

 ベンジーこと浅井健一と奈良美智という、日本が誇るかっこいいおじさん二人がタッグを組んで絵本を発表した。浅井健一といえばBLANKEY JET CITYのボーカルとしてデビューし、ソロ活動や多くの個性豊かなバンド、また詩や絵画の作家としても活動するアーティスト。彼を敬愛するミュージシャンも多く、椎名林檎が初期の楽曲の歌詞に浅井を登場させているのは有名な話だ。ちなみに「ベンジーが肺に映ってトリップ」って歌詞、それベンジンじゃなくて?という20年来の疑問がありますが、今日のところは一旦横に置いときましょう。

 本作は、そんな浅井がSHERBETSとして2005年に発表したプロテストソング「Baby Revolution」の歌詞に、睨みをきかせた子供を描かせたら世界一(アリー調べ)の画家・奈良美智の絵を載せたもの。物語はある日、世界中のベイビーが一斉にはいはいするところから始まる。大都会もジャングルも恐れず進むベイビーたちは、やがて戦場へ足を踏み入れるが……。

 無力なはずのベイビーが持つ、周りを笑顔にしてしまうパワー。世界をハッピーにした、争いを止めた、レボリューションを起こした、その力。かつて私たちが持っていたはずのそれは、どこにいってしまったのだろう。

 ……と、ここでふと思った。っていうかそれ、そのパワー、ほんとに消えてしまったのかな。大人になって、いろんなことを知って、遠くに来てしまった、多くを失ったと思ってるけど、それはほんとにもう私の手の中にはないのかな。

「それ」について想像してみる。色はオレンジ色みたいなあったかい色かな。丸くて、やわらかくて、見たことないけどでも知ってる、希望によく似たそれ。赤ちゃんによく似たそれ。私たちはそれを持っていた。ううん、私たちは、それそのものだった。そう、私たちは、光だったんだ。

 ひとが、いきものが放つ、光を思い出させてくれた本書。ベビーカーが邪魔だとか、泣き声うるさいだとか心のどこかで思ってごめんなさい。大人になり、争ったり欲にまみれたり裏切ったり裏切られたと声高に叫んだり、失ってしまったように見えるけど、信じたいと思う。ほんの小さな頃の面影がまだ残っているように、私たちの中にはまだ光があることを。革命を起こせる光を、確かに放っていることを。

(クレヨンハウス 1800円+税)=アリー・マントワネット

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