フェイクコメディ

 長崎市在住の芥川賞作家、青来有一さんが昨年発表した小説「フェイクコメディ」は、トランプ米大統領がおしのびで長崎原爆資料館の見学にやってくるという設定だ▲主人公の館長は、まさかやってくるはずがないと当惑する。だが、衝動的に核のボタンを押すかもしれない人物に核の恐ろしさを直接伝えるチャンスだと、最後は必死になってトランプ氏に核の非人道性を訴える▲現実のトランプ氏は、改元後初の国賓として堂々の来日だ。きょうから3泊4日の日程で滞在する。期間中、天皇、皇后両陛下との会見や宮中晩さん会、安倍晋三首相との首脳会談に臨む▲首相はおもてなしに総力を挙げる。大相撲の千秋楽観戦では、格闘技好きのトランプ氏のために、貴賓席ではなく土俵に近い升席を準備する。一緒にゴルフを楽しみ、炉端焼き店で和食を振る舞って、くつろいだ雰囲気の中で意見交換をする▲日米の蜜月ぶりを国内外にアピールする狙いだろう。首相はご機嫌取りに並々ならぬ意欲を燃やしているようだ▲日米貿易交渉や北朝鮮の非核化など、両者が向き合い、議論を深めるべき課題は多いが、日米の認識に差があって前進は見通せない。トランプ氏をいい気分にさせる用意だけでなく、首相には訴えるべきことを訴える構えはあるのだろうか。(泉)

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