切り込めるか 手数料の慣習 長崎県内寄港クルーズ船対応 貸し切りバス

クルーズ船から上陸した外国人観光客を乗せ出発する貸し切りバス。福岡ナンバーが目立った=長崎港

 長崎、佐世保両港でクルーズ船の外国人観光客を受け入れる県外の貸し切りバスが増え、県内事業者の受注が減った問題で、国は5月、安全確保のため国が定めた運賃基準を下回る「下限割れ」などが確認されたとして5社を行政処分にした。だが、クルーズ業界ではバス事業者が旅行業者に割高な「手数料」を支払う商慣習があり、表面的には運賃基準をクリアしていても、実態はそうではないケースが多いという。過度な価格競争が続けば乗客の安全コストが阻害されかねず、関係者からは、この商習慣に切り込まなければ「根本的な解決にならない」との指摘は根強い。こうした声を踏まえ、国も調査に「手数料」の項目を追加し、監視強化に乗り出す。

 ある県内バスの経営者が発注元と交わす運送引受書を記者に見せた。上陸客を2台に乗せ長崎市と近郊を半日巡る行程が記され、運賃は法定の下限をわずかに上回る十数万円。手数料の欄の「37%」を指さし、表情を曇らせた。「これが問題だ」。手数料を差し引けば、事実上の「下限割れ」だからだ。
 中国発着クルーズの上陸バスツアーは、中国の旅行会社から請け負った国内の代行業者(ランドオペレーター)が手配する。バス事業者に求める手数料は40%程度が相場で、国内旅行会社の10%程度と比べ高い。バス事業者は、走行距離・時間で決まる下限近くで運賃を設定しても、実際は手数料を差し引いた額しか受け取れない。
 近年は中国系のランドオペレーターが急増。行程に免税店を入れ、そのリベート(割り戻し)で利益を上げている。免税店がバスを手配するケースも増え、免税店とバスの両方を運営する県外事業者もある。こうした構図から「クルーズは県内に落ちる金が少ない」との不満がくすぶる。
 「もし運賃を上げれば切り捨てられる。車両を遊ばせるわけにはいかず、手数料が高くても受け入れるしかない」。県内バスの経営者は、急にキャンセルされても違約金さえ請求できない“弱い立場”を嘆く。
 県外事業者は回送距離が長い分、コストがかさんでも本県に押し寄せている。佐世保港に手配された50台中45台が県外ナンバーという目撃例も。県内に車両収容力のある営業所を置くか、2015年以降、日本バス協会の安全性評価認定(セーフティーバス)を受ければ、訪日客向けに限り営業エリアを九州一円に拡大できるようになった。
 こうした中、県バス協会は昨年、県内事業者の受注台数が1割程度減った調査結果を基に、国に監視強化を要請。監査の結果、運賃の下限割れや所定エリア外での営業行為を県内外5社で確認。車両使用停止処分とした。
 手数料について国土交通省は3月、これを差し引いた運賃が輸送の安全確保に必要な経費を割り込めば「実質的な下限割れで違法」との判断を示し、運送引受書への記載や年間額の報告の義務化を発表。旅行業者を所管する観光庁と連携し調査対象とする。同省九州運輸局は今回の処分と併せて「クルーズ業界に安全コスト意識が浸透するのではないか」とみる。
 県バス協会は「国が調査や監査をどこまでできる態勢なのか。実効性を見極めたい」としている。

© 株式会社長崎新聞社