狙われる少年、高校生の詐欺加担から逮捕まで 再現ドラマDVDに

啓発DVDに収められた再現ドラマ「Fの代償」のワンシーン(県警提供)

 被害が深刻な特殊詐欺に少年が加担するのを防ごうと、神奈川県内の高校生が県警や県教育委員会と協力して啓発DVD「狙われる少年」を制作した。県警が実際に摘発した事件をベースに、ある高校生が甘い誘いに乗って詐欺グループに加担した結果、抜け出せなくなり、犯行を重ねた末に逮捕に至る哀れな成り行きをドラマで再現。「一度手を染めたら最後、多大な代償を払い、家族をはじめ大切な人たちに迷惑を掛ける。絶対に加担しないで」-。DVDには同世代の高校生からの切実なメッセージが詰まっている。

 県警によると、2018年の特殊詐欺の認知件数(2604件)、被害総額(約58億円)はともに過去最悪を記録。詐欺容疑などで摘発したのは204人だったが、3割に当たる60人が10代の少年だった。特殊詐欺に関わる10代の摘発は14年の30人から倍増しており、犯行グループの低年齢化が課題になっている。

 10代への効果的な啓発に向け、県警や県教委は同世代の高校生が出演、編集などを手掛けるDVD制作を発案。意欲的な活動を重ねている県立麻生高校(川崎市麻生区)メディア研究部と、私立向上高校(伊勢原市)放送部の生徒たちに白羽の矢が立った。

 DVDは3部構成で、メインは約20分の再現ドラマ「Fの代償」。友人から「簡単な仕事で、今までのアルバイトとは比べものにならないほど稼げる」などと誘われ、知らぬ間に特殊詐欺に加担させられた高校生が、最後は「だまされたふり作戦」で逮捕され、収容された少年院で罪の重さを自覚するまでの顛末(てんまつ)を描く。当初、疑問を持ちながらも次第に「だまされる方が悪い」などと罪の意識が薄れていく心情や、信頼していた友人、先輩に裏切られる絶望感、暴力や威圧で詐欺グループから抜け出せないようにする卑劣な手口なども描かれている。

 再現ドラマの後は、高校生と県警少年育成課の警察官のやりとりも収録。▽甘い誘いに乗らず、断る勇気を持つ▽一人で悩まず相談する▽高齢の被害者の気持ちになって考える-といった加担防止へのメッセージで結ばれている。

 主に、麻生高はカメラワークや小道具製作といった編集面を、向上高は再現ドラマへの出演を担当。昨秋から約8カ月を掛けて制作し、今春完成した。

 15日に県警本部で制作発表会見に臨んだ麻生高3年でメディア研究部長の森田ことわさん(17)は「制作活動の中で、あらためて同世代が特殊詐欺に巻き込まれている現状を認識した」、向上高3年で放送部長の本田愛理さん(18)は「私たちが演じたDVDを通して、詐欺への加担が人ごとではないことを同世代に知ってもらいたい」と話した。

 DVDは完全版(約36分)と短縮版(約20分)があり、速やかに県内の全ての中学、高校など約780校に配布される。県警はインターネットでの配信も検討している。

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