移植臓器や食品ロスに役立つ新しい低温保存技術の開発に期待

東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授をはじめとする共同研究グループは、低温環境下で生存が難しい線虫に氷結合タンパク質分子を遺伝子導入技術で発現させると、生存率が最大で約10倍に上昇することを世界で初めて示した。

近年、食品ロスが社会問題となっており、冷蔵・冷凍低温保存における賞味期限の延長や、大規模低温保存施設を必要としない保存方法などの新しい保存技術の開発が期待されている。また、臓器移植においても、安定な低温保存期間の延長も期待されている。

同研究グループは、これまでに氷結晶と強く相互作用する氷結合タンパク質分子(Ice-Binding Protein: IBP)の機能に着目した研究をしており、今回、低温環境下で生存が難しい線虫にIBPを遺伝子導入技術で発現させると、生存率が最大約10倍に上昇することを示した。凍結温度域における氷の結晶成長を抑えることで、線虫生体内へのダメージを防ぎ、個体レベルの活動を維持できることが判明したのだ。また、0 ℃においても生存率上昇が確認されたことにより、氷結晶があまり存在しない環境においても細胞保護機能が働いていることも明らかになった。

氷結合タンパク質を発現する部位を変えることで生存率に及ぼす効果が異なることから、今後、最適な導入法や他の分子の導入の可能性を探ることで、移植臓器や食品等の新しい低温保存技術や長期常温保存技術開発につながることが期待される。

論文情報:【Scientific Reports】Expression of Ice-Binding Proteins in Caenorhabditis elegans Improves the Survival Rate upon Cold Shock and during Freezing

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