選手の契約をアシストした「アジアンブリーズ」 指導者が伝えるコーチの本質とは

アジアンブリーズのコーチ陣【写真提供:色川冬馬】

多様な考えをもったコーチを人選

 試合をしながら米国を巡ったトラベリングチーム「アジアンブリーズ」。約1か月間の戦いを終えてチームの目的だったプロ契約者を輩出した。この結果を後押ししたのはコーチの存在だった。

「プロ契約を目指す」という目的の元、日本だけではなく、世界中から選手が集まってアジアンブリーズは結成された。出身地や経歴など何もかもが違う選手たちを導いたのは多様な考えをもったコーチだった。

 アジアンブリーズの強みは独自にチーム方針を決め、トライアウトの仕組みを構築したことにある。その結果、スムーズなコーチの人選も可能にした。一体、どのような基準でコーチを選んだのか。創設者の色川冬馬氏は2つの基準を挙げた。

「1つ目は選手に契約してもらうことが目的なので、そのために必要な実績や契約させる力をもつ人物を選びました。2つ目はアメリカで野球をするので、選手にはリアルなアメリカ野球を知ってほしいという想いがありました。そのためにアメリカ流の考えを知る人物が必要でした」

 こうしてコーチ陣にはMLBマイナーや独立リーグのコーチ、スカウトを務めた実績を持つ者が選出された。中でも監督を務めたベニー・カスティーヨ氏はドミニカ共和国出身でマーリンズ1Aや米国独立リーグチームを率いた経験をもつ。色川氏はカスティーヨ氏に監督を依頼した意図について次のように話す。

「アメリカ人がトップに立って『アメリカの野球』を一方的に押し付けるのではなく、ベニーは外国人としてアメリカ野球を客観的に見て何十年と実績を積み上げてきたので理解も深く、アメリカ人の考え方を伝えることにも長けています」

 アジアンブリーズの選手たちにとって、カスティーヨ氏のような外国人が米国で生きる術や米国のチームが求めるものを熟知している存在は心強い。今回のコーチの人選は色川氏が多くの人に伝えている「1つの考え方だけではなく、世界には多様な考え方や選択肢がある」というメッセージにも通じている。

エディ・ジェラルド氏が選手に話をしている様子【写真提供:色川冬馬】

海外のコーチが考える役割

 アジアンブリーズは世界中から選手が集まり、多国籍軍となった。コーチ陣は日々の練習やミーティングを通じて選手とのコミュニケーションの機会を大切にした。その中でコーチが選手に強く説いていたことは何なのか。色川氏にこの質問をすると当時のことを思い出すためにしばらく考えた。その後「印象的だった」と前置きし、外野手の指導を行っていたエディ・ジェラルド氏の言葉を次のように説明した。

「これはエディが言っていたことですが、日本人選手は自分の打席や出番が終わるとコーチに『どこの部分が悪かったか』と聞いてくる選手が多いそうです。彼が選手に伝えていたのは自身の強みに気づくことが大切で、その部分をもっと磨いていけばより良い選手になれるということでした」

 日本の指導者は選手のミスを許さない、勝つための野球という一方通行の指導スタイルをとる傾向がある。その一方で、海外の指導者は選手の可能性を見出して強みを伸ばし、逆に弱みに対しては共に改善に取り組むスタイルをとる。指導にあたったカスティーヨ氏は「選手たちが毎日のように野球を楽しいと言ってくれる。しかし、なぜ日本の選手は不安そうな顔でプレイするのだろう」と驚きを隠せなかったそうだ。

 アジアンブリーズのコーチ陣は、個人練習で選手の苦手な部分の修正にとりかかっていた。前述のジェラルド氏は「選手を個々の目標に導くことがコーチの仕事です」と話していたという。選手との関わり方によって、選手の将来が決まる。それだけ指導者の役割は重要となる。(豊川遼 / Ryo Toyokawa)

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