『オーファンズ・ブルース』 自主制作の域を完全に超えた長編

 第40回ぴあフィルムフェスティバルのグランプリ受賞作品です。記憶がなくなっていってしまう少女・エマ。彼女は、孤児院時代の幼馴染・ヤンから届いた手紙を頼りに、彼を探す旅に出る。ヤンと再会したエマの旅、うだるような暑さの中で繰り広げられるロードムービーです。

 工藤梨穂という女性監督が撮ったこの作品は、パン工場でコツコツとバイトしながら作った資金と、仲間達とのカンパで作り上げたという小さな規模の作品ですが、自主の域を完全に超えた長編映画。昨今の日本映画に慣れている我々にとっては、あまりにも説明がなさすぎて、「これってこういうことなのかな?」というクエスチョンマークがたくさん出てくるはずです。でも、そういう人にこそ、もう一度観てみてもらいたいなって思います。私はすでに3回観ましたが、観ればみるほど最初は埋まらなかった行間が埋まってくる。そんな作品です。

 日本映画界はまだまだ先が明るい! と思えるのは、映画『僕はイエス様が嫌い』しかり、この『オーファンズ・ブルース』しかり、若手の監督さん達がしっかりといい作品を作っているから。でも悲しいのは、そんな若手の作品を観る機会がなかなかないことです。少しでも多くの人たちが観て、口コミでも彼らの作品を応援してもらえたら、きっと日本の映画界の先は明るいことでしょう! ★★★★☆(森田真帆)

脚本・監督:工藤梨穂

出演:村上由規乃、上川拓郎、辻凪子

5月31日(金)から全国順次公開

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