出産前後 女性の心の“安全基地”に 国家資格の公認心理師 宮崎紀子さん

母親の話に耳を傾ける宮崎さん(中央)=諫早市、MOMレディースクリニック

 出産前後の女性の心の“安全基地”となろうと、奮闘する公認心理師がいる。長崎県諫早市永昌東町の産婦人科MOMレディースクリニックの宮崎紀子さん(51)。公認心理師は、民間資格の臨床心理士と異なる国家資格で、宮崎さんは県内の産婦人科の現場で希有(けう)な存在だ。悩める母親に心理学の視点で関わり、医師や助産師とともに寄り添う。

 小さな体重計が示す数字を見ながら、宮崎さんが生後2カ月余りの女児の母親(26)=福岡市=に語り掛ける。「健診で体重が重いと言われるかもしれないけど、動きだすと引き締まってくるから、その時まで待ってみようね」

 母親は諫早市の実家に戻って初産を迎えた。母乳の吸わせ方やげっぷの出し方が分からずに涙する日も。出産2週間後から定期的に来院。「説明書や聞いていた通りではなくても、成長に沿って柔軟に対応していいと分かった」とほっとした表情で振り返る。

 諫早市出身の宮崎さんは、同クリニックで母子リトミック教室を開いていた頃、母親の悩みに向き合うことがあった。「専門知識がないために、対応に悩んだ」。心理学を学ぼうと、長崎市内の大学に編入したのは、自身も子育てしていた40歳の時だった。

 大学院修了後、2012年から同クリニックで産後ケアを始めた。15年、臨床心理士の資格を取得し、18年に初めて実施された公認心理師試験に合格。今年3月、登録された。

 妊娠から出産、産後までの切れ目のない母子支援が模索される中、さまざまな研究から見えてきたのは、周産期の女性のアイデンティティー(自己同一性)の変化と葛藤に周囲が気付いていない点。「出産と同時に、親や夫、恋人に帰属していた自身を切り替えなければいけない」。出産で環境が激変する母親の心を尊重し、自信を取り戻すケアの必要性を痛感した。

 行政による母子支援への橋渡し役も担う。同クリニックでは母親とともに2カ月までの新生児と1歳までの乳児の個別相談を受ける。「母子関係づくりに大切な産後1~2カ月の母親は、不安や焦りが生じやすいが、専門職の支援が届きにくい時期でもある。ここで母親と赤ちゃんが生活や心のリズムを合わせられたら、健やかな母子関係が続いていく可能性が大きい」。出産直後から母子支援に関わる理由を語る。

 泣きやまない、眠らない、母乳を飲まない-。子どもの行動に自責の念を深める母親たち。「放置すると心を閉ざし、SOSを出せなくなる場合がある。母親の疲れ果てた心に波長を合わせ、悩みを吐き出せる空間をつくり、気持ちが落ち着いた頃、その心の状態に意味があることを一つ一つ説明する」。それが宮崎さんの役割だ。

 産婦人科で母子支援の道を開く宮崎さん。「母親の不調を『産後うつ傾向』と解釈せず、社会全体で支える仕組みができたらうれしい」

 ■諫早市の母子保健事業

 保健師らが生後4カ月ごろまでの乳児宅を訪問する「赤ちゃん訪問」、生後4~5カ月と同10~11カ月に各1回の「乳児健康診査」のほか、育児不安などがある母子(おおむね1歳~就学前)を対象にした子育て専門相談などがある。母子保健や子育て支援を担う(仮称)子ども・子育て総合センターを栄町東西街区市街地再開発ビル内に来年度開設する方針。

© 株式会社長崎新聞社