【登戸児童殺傷】笑顔のあいさつ「きょうも聞けると」 言葉詰まらす校長

事件の状況などについて会見で説明する内藤校長(中央)ら=28日午後7時10分ごろ、川崎市多摩区の私立カリタス学園

 笑顔があふれたいつもの登校時間が、惨劇に変わった。28日朝、川崎市多摩区の登戸駅近くでスクールバスを待つ小学生らが刃物を持った男に襲われた事件。小学6年の女児と、保護者の男性の命が奪われ、17人がけがを負った。「痛恨の極み」「大変悲しい」。学校関係者はやり切れない思いを募らせた。

 被害に遭った児童の通う私立カリタス小学校(川崎市多摩区)は午後6時過ぎから、記者会見を開いた。

 内藤貞子校長によると、亡くなった6年の児童(11)は「毎朝、学校の前で笑顔いっぱいに『おはようございます』と返してくれる子どもだった」という。突然の悲劇に、内藤校長は「本当に信じられない。きょうも元気のいいあいさつが聞けると思っていた」と言葉を詰まらせた。

 犯行は、バス停で児童を引率していた倭文(しとり)覚(さとる)教頭の目の前で起きた。列の後方から子どもの叫び声が聞こえ、両手に持った刃物を振り下ろしながら走る男が目に入ったという。倭文教頭は「男は無言だった。だから子どもたちも気が付かなかった。大声を上げていたら逃げることもできただろうが、無言で切り付けられ、大勢の子どもが犠牲になったと思う」とやるせなさをにじませた。亡くなった保護者で外務省職員の男性(39)は、子どもたちの列からは少し離れたところに倒れていたという。

 学校法人カリタス学園の齋藤哲郎理事長は「言葉にならない蛮行。落ち度のない子どもたちと保護者が被害に遭い、怒りのやり場がなく、痛恨の極みだ」と声を震わせた。犯人像について「心当たりは全くない」とし、犯行予告があったというインターネット上の書き込みについても「そういうことはなかった」と否定した。

 小学校と幼稚園は月内は休校とし、6月にある6年生の宿泊行事も中止。登下校の見守りを強化するとともに、県と川崎市の協力を得て幼稚園から高校までの子どもたちの心のケアに努めるという。

 同校によると、午後5時からの臨時保護者会には小学校だけでなく幼稚園、中高生の保護者も訪れ、約1200人が入る講堂がほぼ満員になった。母親の一人は「まだテレビのニュースの情報だけ。被害に遭った児童がカリタスの子と知り、ご家族のことを考えるとたまらない」と言葉少なだった。約1時間の説明会後、帰途についた保護者は一様に沈痛な面持ちで、父親の一人は「何でこんなことが。こんな悲しいことが日本で」と言ったきり、唇をかんだ。

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