「サッカーコラム」J1浦和対広島 勝負を分けた両監督の選手起用

浦和―広島 前半、浦和・鈴木(左)と競り合う広島・森島=埼玉スタジアム

 空気が心地よい1年でも最も爽やかな季節。それが5月のはずだ。Jリーグの担当者もそう考えて、午後早い時間に開催する試合日程を組んだに違いない。それだけに、こんな高温の中で試合をすることになるとはよもや思いもしなかっただろう。

 5月26日に埼玉スタジアムで行われたJ1第13節。午後2時にキックオフした浦和対広島の試合は、気温33.3度のなかで行われた。体がまだ暑さに慣れていないこの時期の試合は、選手にとってかなりきついものとなる。「(ピッチの)日当と日陰でコンディションが違う」。19歳で日本代表入りした広島のGK大迫敬介がそう表現した過酷な条件での試合は、結果として一方的な内容となってしまった。

 置かれたチーム状況が似通ったチーム同士の対戦だった。浦和は4日前の21日、広島は3日前の22日に行われたアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)でグループリーグ突破を決めた。しかし、アジアを舞台とした戦いで見せる好調さとは裏腹に、リーグ戦では共に低迷。前節まで浦和は3連敗、広島は5連敗となかなか勝ち点を得られない状況が続いていた。

 両チームの指揮官の選手起用に対する考え方は、明らかに違っていた。浦和のオズワルド・オリベイラ監督は、21日の北京国安戦の先発メンバーを10人並べてきた。唯一代わった長澤和輝もMF柏木陽介が北京戦で前半早々に負傷して交代出場した選手。選手にとって大きな負担が掛かる中4日で迎えたこの一戦を実質、同じメンバーで戦うことを選択したのだ。

 一方、広島の城福浩監督は、割り切ったターンオーバー制を採用した。アウェーのメルボルン・ビクトリー戦とこの浦和戦に連続してスタメン起用されたのはDF荒木隼人とMF森島司の2選手のみ。浦和戦に先発した残り9人の選手は、オーストラリア遠征自体を回避し国内でこの一戦に向けた調整を行っていた。

 開始4分、浦和は左サイドの山中亮輔のクロスを武藤樹が右足アウトサイドで合わせる。しかし、ボールは左ポストを直撃して先制のチャンスを逃す。そして、ここから試合終了まで浦和のゴールを予感させる見せ場は、ほとんど訪れなかった。

 前節までの5試合にすべて1点差負け。一方、奪った得点はわずかに「1」。深刻な得点力不足に悩む広島に、この日は運も味方した。失点場面をポストに助けられた直後の前半6分に、今度はポストがゴールのお膳立てをしてくれた。左から柏好文が放ったクロスが浦和DF鈴木大輔の頭に当たり、右ポストを直撃。その跳ね返りがフリーの森島の足元へ。「ラッキーでした」という森島は、自らのJ1リーグ初ゴールを右足で蹴り込んだ。

 得点を奪えないことでチーム内で失われていた攻撃陣への自信は、この先制ゴールで一転して回復した。その後、広島は前半25分にドウグラスが左CKからヘディングで追加点を挙げると、後半18分にはハイネル、35分には渡大生が次々と浦和ゴールをこじ開け、神戸戦に並ぶ今季リーグ戦最多の4ゴールを記録。守っても7試合ぶりのゼロ封を演じ、4―0の快勝を飾った。

 試合の勝敗を分けたのは、間違いなくコンディショニングの差だろう。それが季節外れの猛暑で、さらに際立った。浦和は明らかに運動量が少ない。相手選手を捕まえきれない。特に、左右のアウトサイドを務める山中、森脇良太が守りのときに自陣へ戻れないものだから、3バックのサイドが大きく空く。そのスペースを広島は効果的に使った。

 リーグ戦では10年ぶりに喫した4連敗。試合後、浦和のオリベイラ監督は「われわれにとって悲惨な午後となりました」と振り返った。そして、敗因としては「前の試合で掛かった不可が大きかった。火曜の試合の消耗度を評価できなかった」ことを挙げ、コンディショニングに問題があったことを認めた。

 しかし、それだけで敗れたのではない。それはGK西川周作が口にした次の言葉からも伺える。「球際ですね。寄せるにしても寄せ切れていない。ただ立っている」。浦和は意識の面でも問題を抱えていたようだ。

 一方、広島の城福監督は「積み重ねること、やり続けることの大切さをみんなが感じられた。それが今日は一番うれしい」と笑顔。ブレずに進み続けることのみで得られる喜びは、確実に存在するのだろう。

 それにしても広島は浮き沈みが激しい。第3節からの5連勝で一時は首位を走った。それが第8節からの5連敗で8位まで転落。そして、浦和戦でようやく長いトンネルを抜けることができた。

 この試合でキャプテンマークを巻いたDF佐々木翔は、4月14日以来の勝利を心地よい疲労のなかで味わっているようだった。

 「しんどかったですよ、もちろん。結果が出ない。内容はそこまで悪くはないという気持ちはありましたけど。でも結果がすべてですかね」

 同じ連敗が続いても、悪くはないと選手が思える広島のようなケースもある。一方、浦和の連敗の原因は根が深いのかもしれない。悪い予感はあたるもので、原稿執筆中の5月28日夜、浦和がオリベイラ監督との契約を解除したとの報が入ってきた。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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