プロ野球西武のホームランアーチスト、山川穂高の快進撃が止まらない。
3、4月のパリーグ月間MVPに輝くと、5月は記録と記念アーチを量産。まず、5月12日の日本ハム戦で、日本人最速の通算100号を記録した。従来の秋山幸二(元西武)が持っていた351試合を30試合も更新した。
5月15日のソフトバンク戦では郷里の沖縄に凱旋すると17、18号の固め打ちでファンを熱狂させた。
さらに5月28日の楽天戦。今度は大学(富士大)時代を過ごした「第二の故郷」岩手でも21号本塁打をマーク。最も打ちたい場所で、打ちたい時に本塁打を積み上げていくのだから、これもスターの証明と言えるだろう。
今や力士顔負けの「どすこいポーズ」をテレビ画面で見ない日はないくらい。怪物は、確実にスケールアップしている。
中でも山川の進化を証明したのが「膝つき本塁打」ではないだろうか。
これも5月14日のソフトバンク戦。先発ローテーション入りも期待される成長株の椎野新のカーブに上体が泳がされながら右膝をつくような格好で左翼スタンドまで打球を運んだ。
さらに、翌15日にも同じような形で大竹耕太郎からバックスクリーンへ一発。かつて、メジャーリーグではレンジャーズなどで活躍したベルトレ選手の膝つき本塁打は有名だったが、山川のパワーと技術は今やメジャー並みである。
「真っ直ぐにタイミングを合わせていて、変化球の時に(上体が)前に出そうになるところで膝を使うという感じ、グッと地面の方に下げるような」
この高等技術にもう少し説明を加える。山川の打撃の特徴は独特なタイミングの取り方にある。
通常の右打者が左足を投球に合わせて上げるのは珍しくないが、山川はそこから左足の膝下をさらに伸ばしていく2段階のステップ打法なのだ。野球評論家の山崎弘之氏はその狙いをこう語る。
「彼の打撃はいかに右足に体重を残して、その場で軸回転で打てるか。そのために泳がされそうになっても、独特のタイミングで“間”を作っている」
つまり、普通の打者なら鋭い変化球にタイミングをずらされて凡打に終わるケースでも、山川の場合は上体を泳がされながらも、もうひと粘りして、膝まで使ってホームランに持っていくわけだ。
昨年は47本塁打で初の打撃タイトルを獲得。シーズンのMVPにも輝いた。
だが、今季の目標をさらに上方修正して50本塁打以上と公言する。
「去年は3試合に1本をめどとしてきたが、それでは50本に届かない。だから今年は打てる時に何本でもどん欲に狙いにいきます」
ちなみに日本人打者の50本台到達は2002年の松井秀喜(元巨人)が最後。現時点(5月28日現在)のペースならシーズン終了時には62本塁打まで達する計算となる。
3年前まではファームでくすぶっていた未完の大器が、とてつもないホームランモンスターに成長を遂げた。
山川の「練習の虫」ぶりは今や語り草になっている。
本拠地のメットライフドームでの試合前に特打ち、試合後にも室内練習場にこもってマシーンと格闘する姿は珍しくない。
「よく、ヒットの延長線上にホームランがあると言うけれど僕は違う。全打席ホームランを狙いに行きますよ」と言ってのけるのも、人一倍の練習量からくる自信と確信の表れなのだろう。
西武には昔からフルスイングの哲学が生きている。古くは西鉄時代の中西太から西武黄金期の清原和博、さらに「おかわり君」こと中村剛也や森友哉まで、ぶんぶん振り回すことで相手投手を震え上がらせる。
そんなチームカラーがあるからこそ、山川もまた伸びやかに育つことができたのだ。
桁外れのスイングスピードとそれを支える強靭な足腰。加えて相手投手のウイニングショットすら「膝つき打法」で本塁打にしてしまう高度な技術。相手球団のマークは当然のように今まで以上に厳しくなっていくが、今のところ山川に弱点は見当たらない。
規格外の天才が、これからどれだけ数字を伸ばしていくのか。西武ファンならずとも気になるところである。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。