ロシア核実験、米国主張に疑問の声相次ぐ

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太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局、47NEWS編集長などを経て2019年10月より現職。イトマン事件、阪神大震災、コソボ紛争、ユーゴ空爆、モスクワ劇場占拠、アフガン紛争、ギリシャ財政危機、東日本大震災などを取材。

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米国防情報局のアシュレー局長=1月、ワシントン(ゲッティ=共同)

 米国防情報局(DIA)のアシュレー局長が29日、ワシントンでの講演でロシアが包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反し、低出力の核実験を秘密裏に実施している可能性があると明らかにしたとのニュースには驚いた。事実とすれば、米国と並ぶ核大国のロシアが、長年堅持してきた核実験モラトリアム(一時停止)を秘密裏に破棄したことになり、世界の核管理体制を揺るがす事態に発展しかねないからだ。  (共同通信=太田清)

▽米中未批准

 核実験禁止の根拠となるCTBTは1996年国連総会で採択されたものの、原子炉を保有する44カ国の批准が必要とされていながら、批准国は英国、フランス、ロシアなど36カ国にとどまっている(米国、中国は未批准)ため発効していない。にもかかわらず、核保有5大国は98年以降、条約を尊重する形で自主的にモラトリアムを堅持してきた。 

 ロシアがCTBT(正確に言えばその精神に)に違反したとすれば、同国に続き核実験を再開する国が出るなど国際的な核軍拡の動きに結びつく可能性が懸念される上、CTBTに署名せず事実上の核保有国となったインド、パキスタン、北朝鮮を批判し核放棄を迫る根拠も揺るぎかねない。世界で唯一の被爆国である日本も無関心ではいられない大問題だが、DIAの主張に対し専門家や識者から、その正当性に対する疑問の声が相次いでいる。 

▽「おそらく」

 軍縮専門家でつくる非政府シンクタンク、アームズ・コントロール・アソシエーション(米ワシントン)は同日、DIAの主張は「証拠がない」と批判する声明を発表した。声明はアシュレー局長がロシアの条約違反について「probably(おそらく)」と、あいまいな表現を用いたと指摘。 

 さらに、米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者とのやりとりの中で、局長はロシアが核実験を行ったと明言することは避け、低出力の核実験を行う「能力」があると述べるにとどめたと強調。また、ロシアは核出力の強弱を問わずあらゆる核実験に反対すると公言しており、条約解釈の抜け道を使い低出力の核実験を行っているとの一部米国内の批判には根拠がないとした。その上で、アシュレー局長はどのような証拠も公に提示していないとして、発言に疑問を投げかけた。 

 参考に言うと、米国は核出力を伴わない臨界前核実験はCTBT違反に当たらないとして公然と実験を繰り返している。

 ▽うわさのたぐい

 一方、英ガーディアン紙(電子版)によると、先月発表されたばかりの米国務省の軍縮に関する報告にはロシアの核実験に関する記述はなく、CTBTに基づき設けられた包括的核実験禁止条約機関準備委員会も、世界の300カ所以上に設置された核実験の国際監視システムは現在のところ何の実験の兆候もとらえていないとの声明を発表した。 

 米国務省の元軍縮部門担当者で現在、軍縮問題の非政府組織責任者を務めるアレクサンドラ・ベル氏は同紙に対し「ロシアの条約遵守の有無を評価するふりをしたうわさのたぐいすぎないようだ。もし事実なら、なぜ発表されたばかりの報告に事実が記載されなかったのか。報告には核実験に関する記述は全くなかった」と痛烈に批判した。