対峙する米中 93歳首相が語った「正論」

マハティール氏

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マレーシアのマハティール首相

 日本を規範とする「ルックイースト政策」を進めたことで知られるマレーシアのマハティール首相が来日、5月30日に日本外国特派員協会で記者会見した。貿易摩擦など米中の対立について「いかなるためにもならない」と力説した。

 意欲的な話しぶり、経験に裏打ちされた言葉はやはり人を引きつける。1981年から22年間、マレーシア首相を務め、昨年再び政権の座に返り咲いた。一帯一路を年頭に巨額の経済「協力」を進める中国に対して、事業コストが異様に高いと前政権で結んだ契約を改めるなど、その手腕が再び注目された。「レジェンド」とも言える93歳の政治家は何を語ったか。(共同通信=柴田友明)

 ―米中貿易戦争、今後の展開はどうなると思いますか。

 「これはいかなるためにもならない。経済発展の上で、あらゆる国に影響してしまう。われわれは全く望んでいない。もっと合理的なやり方があれば是非追求してほしい。中国は豊かになり、世界の市場になり、世界もその恩恵を受けている。このような対立は緩和すべきだ。米国がどう思おうと、中国が力を持っていく時代だ。航空機、エンジン生産分野など米国製品が、台所回りのモノはアジアの製品が秀でているように、それぞれが一番得意な分野で特化して競争すべきでしょう。決して(どちらかが)征服しようとしてはならない。軍艦を派遣するような強硬な策は時代遅れ。やめてほしい」

 ―中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する米国の制裁などについてどのように受け止めているか。

 「米国は明らかに恐れている。ファーウェイはもしかしたら米国に対して諜報活動を展開するかもしれないと(米国は)考えている。もしかしたら批判の正当な理由かもしれないが、それは正しい方向ではない。自分の強みを生かして競争すべき。私が確信しているのはCIAは長年にわたって中国やマレーシアでもずっと諜報活動をしてきたと思います。それに対して、米国製品を不買運動することはしていません」

マレーシアのマハティール首相(左)と握手する安倍首相=2018年11月6日、首相官邸

 「どうしてそんなに元気なんですか」。マハティール氏は長寿で現役であることへの「秘訣」について尋ねられた。かつてインタビューされたときに、たまたま手元に置いてあったビタミン剤が映像に出て、薬局からその商品が消えるほど売れたと言って記者たちを笑わせた。彼が語ったのは、食べ過ぎないこと。心にゆとりを持ち、つまらない言動にいちいち感情を爆発させないこと、シンプルな生活を心掛けているということだった。

 会見の質疑でマハティール氏が繰り返し述べたのは軍事手段の無意味さだった。「軍艦派遣は全く役に立たないというのが私の見解。紛争を解決する手段は交渉、調整だ。あるいは(国際司法の)裁判、法の支配だ」「問題というのは必ず発生するが、(手段として)戦争するというのはノーだ。(軍事的な)脅迫行為に及ぶことは原始的なことで、近隣諸国とは付き合っていけない」。自国が周辺国であるタイ、シンガポール、インドネシアなどと係争した過去の課題を具体的に語った姿は印象的だった。

 日本の現状を見て、マハティール氏が唱えてきたルックイースト政策についてどう思うかという質問もあった。これは昨年、同氏が来日したときに日本記者クラブで語った内容とほぼ同じだった。彼の考えの中核とも言える言葉なので昨年の回答をそのままご紹介したい。

 「ルックイースト政策を考えたとき、インスピレーションは日本から受けました。1961年に初めて来日したときには、日本はまだ戦後の復興の時期だった。ところが非常に短い期間で、日本は復興しただけでなく、世界ナンバーツーになり、ナンバーワンになるかというところまでいった。そのような意味で大変尊敬をしている。私なりの分析をすると、なぜ強力な成長ができたかと考えると、その要因は日本人の価値観にあると思った。それには、恥の精神がずいぶん大きな意味があったのではないか。上手にできなかった場合、自分のことを恥ずかしいと思う。昔は(日本人は)腹切りをしたかもしれない。それがあるからこそ何でも最善を尽くす、何をするにも日本は質が高く、早くできるということになったのではないか。それによって日本が成長して、世界の中で競争していく存在になっていけた」

閲兵するマレーシアのマハティール首相(中央)とシンガポールのリー・シェンロン首相(左から2人目)=2018年11月12日、シンガポール(ロイター=共同)、肩書は当時