「社長になって15年。一番厳しい年になった」
5月上旬、東京証券取引所内にある記者クラブで開かれた2019年3月期の決算発表会。紳士服業界最大手・青山商事(東京都)の青山理社長は、振るわなかった業績を説明し、そう漏らした。
近年は増収増益基調が続いていたが、大きく落ち込んだ。クレジットカード事業や飲食事業などは好調だったが、最終利益は前期比5割減。東日本大震災の影響で業績が急落した11年3月期以来の低水準だった。
「スーツが売れなかったことが苦戦の要因」
青山社長は、本業であるスーツ事業の不振で低迷していると明かす。
同じく業界大手のAOKIホールディングス(横浜市都筑区)やコナカ(同市戸塚区)も全て減収減益だった。スーツの販売不振は各社に共通。いま、「スーツ離れ」が起きている。
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自動車の普及で消費行動が広がった1970年代。紳士服店はこぞって郊外に出店した。
低賃料に加え、自社で生産・販売することで高品質を維持した低価格スーツを実現。150坪ほどの店内に豊富な種類をそろえ、人気を呼んだ。業績は右肩上がり。コナカの安部公政執行役員は当時を「業界全体に勢いがあった」と振り返る。
それが転換したのは、2005年から始まった「クールビズ」。夏季に軽装で働く呼び掛けが少しずつ浸透し、東日本大震災後の節電対策で一気に定着。IT業界を中心に、ジャケットとパンツを組み合わせるなどオフィスでのカジュアル化が進んだ。
安部執行役員は「スーツはビジネスマンにとってユニホームのようなものだった。いまは上着を着なくても、ネクタイをしなくてもいい」と指摘。郊外店舗を中心に客足は少しずつ遠のいた。
少子高齢化による労働力人口減少の影響も大きい。10年から「団塊の世代」が定年を迎え、脱スーツに拍車を掛けた。
総務省の家計調査によると、1989年に1万6千円を超えていた1世帯当たりのスーツ年間支出金額は、2018年には約5100円と、約7割も減少した。
AOKIホールディングスの田村春生副社長は「マーケットが急激に縮んでいる」と危惧する。
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情勢悪化に、静観しているわけではない。00年前後から、各社は事業の多角化に着手してきた。コナカは飲食事業と教育事業を、AOKIがブライダル事業やカラオケなどのエンターテインメント事業を強化。これらは着実に業績を伸ばし、AOKIでは、19年3月期の営業利益全体に占めるファッション事業以外の割合が約46%まで上昇している。
スーツ事業の先細りに対する不安から、従来のビジネスモデル脱却を目指す各社。田村副社長は危機感をあらわにする。
「ファッションで伸ばしていくのは難しい。(新しい)手を打たなければいけない」
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クールビズの浸透、ビジネスウエアのカジュアル化、労働力人口の減少-。スーツ業界への逆風が強まっている。スーツ事業の立て直しか、それとも多角化に軸足を移していくのか。今後の戦略に迫り、業界の行方を追う。