アメリカ人の性的少数者、彼らは言う。”私はLGBTQ+。そしてハッピーです”

LGBTQ+とは?

  • L:レズビアン(Lesbian)の略称。体の性が女性で、女性を愛する同性愛者のこと。
  • G:ゲイ(Gay)の略称。体の性が男性で、男性を愛する同性愛者のこと。
  • B:バイセクシュアル(Bisexual)の略称。体の性が女性もしくは男性で、女性と男性を愛する両性愛者のこと。
  • T:トランスジェンダー(Transgender)の略称。体の性は女性ですが心の性が男性の人、もしくは体の性が男性でも心の性が女性の人。
  • Q:クィア(Queer)の略称。体の性や心の性、社会の性、対象の性を男性か女性に決めない人。もしくはこれらの性別認識に迷いがあるクエスチョニング(Questioning)の人。
  • +とは、上記のLGBTQ以外の性的マイノリティーの略称。誰も恋愛対象にならないアセクシュアル(A-sexual)、生まれつきの体の性が女性でも男性でもないインターセックス(Intersex)の人、生まれつきの体の性が女性もしくは男性でありながら自らの体の性を決めない立場を取るエックスジェンダー(X-gender)などの人。

人間の『性』の4つの概念

  • 体の性(Sex)
    生物学な性別を意味します。外性器・内性器・生殖腺・性染色体などが組み合わさって決められます。→男/女/どちらでもない(インターセックスなどに相当)の、3パターン。
  • 心の性(Gender Identity)
    自身の性別をどのように認識しているか、性の自己認識(性自認)のこと。「男性」「女性」のほか「どちらでもない(無性)」「どちらでもある(両性)」「時により変化する(不定性)」などもあります。→男/女/どちらでもない(クィアなどに相当)の、少なくとも3パターン。
  • 社会の性(Gender Role)
    男女の性別に対する、社会の固定的な考え方や役割を意味します。「女らしさ」「男らしさ」は体の性(セックス)とは別次元のもので、人間が成長の過程で後天的に身に付けるものです。→男/女/どちらでもない(クィアなどに相当)の、少なくとも3パターン。
  • 対象の性(Sexual Orientation)
    欲情・性欲の対象が何に向いているかという性的な指向のことです。体の性と異なる性ならストレート(異性愛者)、体の性と同じ性ならホモセクシュアル(同性愛者)、体の性と異なる性も同じ性も対象になる場合はバイセクシュアル(両性愛者)、そして異性にも同性にも性的魅力を感じないアセクシュアル(無性愛者)もいます。→男/女/男女両方/男女どちらも対象外の、少なくとも4パターン。

「性(セクシュアリティー)」はグラデーションのようなもの。以上のパターンを総計すると、少なくとも108(3×3×3×4)パターンに!

意外と奥深い!「LGBTQ+=レインボー」の由来

013年6月、NPO団体Castro/Eureka Valley Neighborhood Associationが設立した、ピンクトライアングルパーク。

LGBTQ+の象徴であるレインボーのシンボルは、1978年6月25日、サンフランシスコで行なわれたゲイ・フリーダム・デイ・パレードで誕生しました。それまでのLGBTQ+関連の運動では、ナチスドイツ政権下のホロコーストで強制収容された男性同性愛者に付けられた目印、逆三角形型のピンクトライアングルが使われていました。
 
「悲しい歴史をシンボルにし続けるのはもうやめよう」。ゲイでサンフランシスコ市議会議員(当時)のハーヴェイ・ミルクがこう提案し、その友人のギルバート・ベイカーが「LGBTQ+の当事者のみならず、人間の多様性を守るムーブメントを世界中に広めよう」という思いを込めてレインボーフラッグを考案したのです。

インタビュー1

”性別ってそんなに重要?恋愛って人を好きになること”

息子、娘、妻がいながらも男性に恋をして、同性結婚をした元ストレート(異性愛者)のクリストファーさん。なぜ男性に恋をして結婚にまで至ったのか、経緯と現在の暮らしについてお話を伺いました。

クリストファー・リーチさん

1947年ニュージャージー州生まれ。ペンシルベニア州のメディカルスクールを卒業後、ミシシッピ州の病院で一般外科医の研修生として勤務。その後、ニューヨーク州の病院で心臓外科医として勤務後、アメリカ空軍専属医師を経て、ウィスコンシン州の病院にて心臓外科部長を務める。2008年に退職し、ファイナンシャルアドバイザーを始める。2013年に現在の夫、ダニエル・カニンガムさんと出会い、2015年に結婚。現在、2人でロサンゼルスに在住。

ダニエルさんとの出会いのきっかけを教えてください。

Facebookの「知り合いかも(友達の友達)」リスト内にダニエルがいたんです。プロフィールを読んだら彼が投資家で、私もファイナンシャルアドバイザーをしていたことからメッセージを送ると話が弾み、Facebook上で友達になったのが出会いのきっかけです。その後、ネブラスカ州のオマハで開かれる資産運用のためのファイナンシャルミーティングに、たまたま彼も行くことが分かり、実際に会ったのはその時が初めてでした。
 
それまで女性としか付き合ったことがなかったのに、会った瞬間からウィスコンシン州の自宅に帰った後もずっと、彼のことが忘れられず、これは友人としての感情ではなく、恋愛感情だと気付きました。いわゆる一目惚れというやつですね。

男性に恋をしたのはダニエルさんが初めてですか?

はい。 ダニエルに恋をして初めて自分がゲイだということに気付きました。ですから元妻と結婚生活を送っていた時にゲイだったことを隠していたわけでもなく…。自分の対象の性を定義付けるなら、 ゲイ(同性愛者)だと思います。ストレート(異性愛者)だったので、よく勘違いされるのですが、男性も女性も愛するバイセクシュアル(両性愛者)ではありません。

ダニエルさんとの結婚の決め手は何でしたか?

私の姉に自分の正直な気持ちを話して、今後どうするべきかを話したんです。すると姉は、「残りの人生、自分の生きたいように生きなさい」と私に言ってくれました。それで妻に正直な気持ちを伝え、離婚を決意しました。同性、異性関係なく、人を愛するという行為を認めてくれた姉は私の支えです。そんな姉は、手に変形性関節症を患っているのですが、ダニエルは私の健康のことだけでなく、姉の健康のことも心配してくれます。
 
結婚するということは、家族になるということ。恋愛の始まりは2人だけの世界からスタートするかもしれませんが、結婚となるとその世界だけにとどまることはできません。ダニエルは私の家族にも、友人にも分け隔てなくフレンドリーに接してくれるので、それが結婚の決め手になりました。

日本では同性婚ができないのですが、それについてどう思いますか?

投資家として自宅で勤務する夫のダニエルさん(右)のために、クリストファーさんは一日三食、料理を手作りしているそう。

人を愛するという行為、同性愛を禁止していなければ、結婚にこだわらなくてもいいとも私は思っています(現在、日本では東京都渋谷区などで同性カップルを結婚に相当する関係と認める「パートナーシップ制度」が導入され、例えば不動産業者などに夫婦と同等な扱いをするように配慮を求めている)。でも、昨年10月に私が背中にできたアテローム(粉瘤)を取り除く手術を行ったのですが、そうした時に、日本では最愛のパートナーが手術を行なう同意書にサインできないということになっているなら、それは問題ですね(日本では、パートナーは病院での面会は許可されても、家族として手術同意書へのサインはできない)。

これからどんな家庭を築いていきたいですか?

将来的にはダニエルと私の間に子どもが欲しいと考えています。私とダニエルには大きな年齢差があるので、生涯ずっとダニエルの側にいることはおそらくできない。そうなった時に、ダニエルに、家族と呼べる人がいてほしいなと思うんです。

クリストファーさんの娘・キャロリンさんに聞いてみました!

「お父さんの第2の人生についてどう思う?」

父と私は昔から、性的少数者に関して「異性愛者でないだけでなぜ差別の対象になるのか」といった一般的な内容で意見を交わすことが多くありました。ですからカミングアウトされた時は、否定はしませんでした。もちろん、驚きの気持ちはありましたよ。だって、私が見てきた父の26年間は、母を愛する異性愛者のお父さんでしたから。
 
父の結婚相手が男性なのは大きな問題ではないと思います。そもそも対象の性は変わり得るものだと思いますし、変わらない人の方が稀なケースなんじゃないかなとも思っています。実は私自身も変化したことがあるんです。高校生の時に女の子がセクシーだなと思ってその時に正直な気持ちを母に伝えたら、拒絶されてしまって…。その後、ボーイフレンドができたんですけど、今はガールフレンドがいます。
 
自分のセクシュアリティーを定義付けるならクィアだと思っています。自分は絶対に男しか生涯愛さない、女しか生涯愛さないと決めつけてしまう人生ってなんだか狭い世界になってつまらないと、私は思うんです。恋をする対象が同性でも異性でも、別にいいじゃないですか。

インタビュー2

”マイノリティーって誰が決めたの?人を区別する言葉なんて要らない”

「セクシュアリティーは人それぞれ違っても皆同じ人間」と訴える団体、Radical Faeriesに参加するサムエルさん。日本人には馴染みのないクィア(Queer)の定義と、性的少数者が直面する差別についての考えを話してもらいました。

サムエル・イサイアス・ロラさん

1988年、ベネズエラ・ポリテュゲサ州生まれ。1999年、父が養子にした4歳年上の姉の実の両親がアメリカにいることが分かり、それをきっかけに、ヴァージニア州に移住。2013年、オレゴン州ポートランドに移り、現在は性的マイノリティーと公言しながらモデル、詩人・作家として活動。イギリスで2017年8月8日に開催予定の「CREATE a global community」などのLGBTQ+イベントを支援するアクティビスト。

クィアという定義は曖昧すぎてよく分からないという人も多いかと思いますが、改めてクィアとはどんな存在なのでしょうか。

クィアという言葉はかつて「変わり者」という意味で、侮蔑的なレッテルとして使われていました。それをあえて「普通の人なんているわけない。みんな変わり者でいいんだよ」というメッセージを込めて「私はクィアだ」と表明する人たちが出現し始めたのです。ですから性的マイノリティーの総称とされる、いわゆるLGBTの人がクィアと表明することもありますし、性的マジョリティーとされるストレート(異性愛者)の人だってクィアと表明することもあります。

サムエルさんはいつ自身が性的マイノリティーだと気付いたんですか?

5歳で気付きました。姉の友達の男の子と遊んでいた時、その男の子のことをただの友達という感情ではなく、本当に好きでどうしたら彼を一人占めできるんだろうと考え始めました。でも彼は女の子の人気者で、周りの会話を聞くと「〇〇ちゃんは△△君が好きなの?」と、女の子が男の子に恋をする(もしくは男の子が女の子に恋をする)ということが世間では当たり前のことなんだと気付きました。その時、「自分は人とは違うんだ、この感情を堂々と外に出したら、絶対に差別されてしまう」と気付いたんです。部屋に引きこもって感情を押し殺すように泣いたのを今でも覚えています。

…というと、ゲイ(同性愛者)ですよね?

そうですね、この話だけを聞くとゲイだと思われますが、私は自分のセクシュアリティーをやはりクィアと定義付けています。これには理由があって、私はカテゴライズされた言葉があまり好きではないからです。
 
「男性/女性」「同性愛者/異性愛者」…と区別があるのも、カテゴライズの一種ですし、LGBTという言葉だってよくよく考えるとカテゴライズされた言葉、概念だと思いませんか? 今は昔に比べて「私はL(レズビアン)です、私はG(ゲイ)です…」と自分の性的指向を表明しやすい世の中になってきました。でもそうやって、カテゴライズし始めると、今度は「レズビアンなら社会に出てキャリアウーマンになってバリバリ働くべき」とか「ゲイなら流行に詳しくてファッションやコスメには常に気を遣っているべき」とか、こうある「べき」論が生まれてきてしまいます。結局、レズビアンらしくないレズビアン、ゲイらしくないゲイは、性的マジョリティーからの偏見や差別から逃れられたとしても、性的マイノリティー同士のコミュニティー内で差別を受けてしまうんです。

サムエルさん自身も差別を受けた経験がありますか?

もちろん。移民であること、子どもの頃どもりがあったこと、ほかの男性よりも毛深いこと…。いろいろなことで差別を受けた経験があります。差別とは、自分と違う人間を批判することだと思います。だから差別はどんな国や場所でも、誰にでも起こり得ます。差別は性的少数者だけの問題ではないのです。

では差別はどうやったらなくなっていくんでしょう?

人間はジェンダーを越えた存在だというテーマで、サムエルさんが作った詩や小説、写真をまとめ、自費出版した本『TOY SOLDiER』。

差別をなくす解決法に正解はありませんが、一人一人が社会の中で属するカテゴリーにフォーカスしすぎず、そして、自分の存在を定義する「言葉の一人歩き」に気が付くことが、差別解消の近道だと思います。
 
一つ例を挙げましょう。長年の友人である「ジョン」という名前の人を好きになって、ある日その人の名前が「ケン」に突然変わってしまっても、本当に相手の中身が好きだったら、相手がどんな名前であってもそれは関係ないことですよね。
 
この名前の問題と同じ発想で、2人の人の間で「私はゲイです」「私はストレートです」と自己紹介があった時に、ゲイという言葉、ストレートという言葉がただ単にその人を表す外身の名前であって、その人の本当の中身を表現していないことに皆が気付いたら、自分と違う人を批判する気持ちは、自然と湧いてこなくなると思うんです。

でも同性愛者に対する嫌悪感は根強くありますが…。

それは異性愛者が同性愛者という言葉を聞くとつい、同性同士でのセックスシーンを想像してしまうからではないでしょうか?
 
私は14歳の時に男性が好きだと母親に告白した時、「男性とセックスしていないのに、なぜあなたは男性が好きだって分かったの?」と母は私に尋ねました。その時に「セックスしなくても男性にしか好きっていう感情が湧かないんだよ」って答えたんです。
 
人が人を好きになる。それは相手に興味を持って、もっとその人を深く知りたいという思いから。性的少数者はセックスばかりを追い求めるわけではありません。

インタビュー3

”「トランスのジーナ」ではなく「ジーナ」として生きる日を夢みて”

Los Angeles LGBT Centerでトランスジェンダーのための支援講座「trans*lounge」のコーディネーターを務めるジーナさん。トランスジェンダーの当事者として、この仕事に就いた経緯と思いを伺いました。

ジーナ・スティーヴィー・ビグハムさん

1966年、サンフランシスコ生まれ 。2009年、Los Angeles LGBT CenterのMarketing Departmentにてパートタイムの仕事を始め、現在はトランスジェンダーのための支援講座「trans*lounge」をコーディネートする責任者。

トランスジェンダーの当事者としてLGBTセンターで仕事をしようと思ったきっかけを教えてください。

LGBTセンターとの出会いは偶然でした。8年前の夏、ダウンタウンロサンゼルスで警察に「赤信号なのに横断歩道を渡った」と言われ、交通違反で捕まって尋問を受けている時、「Sir(男性向けの敬称)」と呼ばれ続けました。それで尋問の途中、「Sirという言葉で私を呼び続けないで」と警察官にその場でお願いしました。でも警察官は「見た目の通り、『男』と呼びます」と言いました。実際この時、まだ性別適合手術が完了する前でしたから、私の身分証の性別欄が「男」のままだったことも理由でしょう。でもこれは明らかにトランスジェンダーに対する差別だと感じました。
 
この時一緒にいた友達がLGBTセンターでヘルスサービスを利用していたこともあってセンターの存在を知り、相談に行くことにしました。センターの職員は親身になって相談に乗ってくれ、弁護士を雇って裁判を起こすことになりました。弁護士費用もセンターが負担してくれ、結果、勝訴。800ドルの罰金が取り消されたほか、カウンティーの警察長から謝罪文を受け取った時は、トランスジェンダーとしての人権が守られていると強く感じました。
 
自分もこのようにトランスジェンダーの人を助けたいという思いからセンターへの就職を希望し、マーケティング部門でパートタイムの仕事を手に入れました。それが私のキャリアのスタートです。

ジーナさんは素敵なキャリアを掴みましたが、「トランスジェンダーというだけで仕事に就けない人がいる」とニュースで聞いたことがあります。実際のところアメリカではどうなのでしょうか?

私の知り合いに法科大学院を卒業したトランスジェンダーの女性がいますが、彼女は弁護士事務所に就職することができず、レストランの接客業に就くこともできませんでした。それくらい、トランスジェンダーとして社会で働くことはこの国でも難しいのが現状だと言えます。
 
結果、「就職できないのは自分が希望する性別になりきれていないから」という考え方に陥りがちで、アメリカの心理学雑誌『PsycologyToday』の調査(2015年7月発表)によると、41%のトランスジェンダーが過去に自殺を試みたといいます。

約4割のトランスジェンダーが自殺を考えてしまうのは深刻ですが、当事者自身ができる自殺防止対策はありますか?

「2年前に性転換手術が終わったばかり。だから今までは恋愛することなんて考えられず仕事に没頭してきました」と話すジーナさん。

まずはトランスジェンダーの当事者が、自身の性別を周囲に正しく認識してもらうように努力をすること。例えば私のように男性から女性へ性別を変更する人は、女性らしく見えるヘアスタイルやメイクアップ方法、着こなし、そして適切な声の音域などを徹底的にトレーニングする必要があります。私がコーディネーターを務めるプログラム「trans*lounge」では、こうしたスキルを身に付けるための講座を無料で提供しています。
 
そして何より大切なのは、トランスジェンダーである自分の存在を隠さず、否定しないこと。アメリカでは同性同士の婚姻が認められて、ゲイやレズビアン、バイセクシュアルが以前より受容される社会に変わってきました。それはゲイやレズビアンの人たちが勇気を持ってカミングアウトし続けてきた結果なんです。自信を持ってカミングアウトすることは、社会の中で見える存在として、つまり社会の一員として生きることにつながるんです。

では当事者以外ができることはありますか?

多くの人がトランスジェンダーの人を見た時、テレビの中のドラァグクイーンを思い浮かべてしまいますが、両者は違うということに理解を深めることが必要です。ドラァグクイーンは自分が男性の体をしていることを自身で受け入れながら女性の格好をして女性を演じるショーなのに対し、トランスジェンダーは常日頃から男性(または女性)の体であることに違和感を感じ女性(または男性)の格好をしなければ日常生活を送れないリアルな存在なのです。

ジーナさんの将来の夢を聞かせてください。

私は今の仕事に就けたことが夢みたいなものなので、夢の中を生きていると感じています。でも、社会の中でのトランスジェンダーの認知度はまだまだです。
 
モントリオールオリンピック陸上競技で金メダルを獲ったケイトリン・ジェンナーのように、トランスジェンダーと公言して働きながら、当事者がもっと生きやすい社会を目指し続けたいという思いはあります。でもいつの日か、トランスジェンダーのジーナではなく、女性、ジーナとして人生を送れる日がきっと来るはず。そう信じています。

インタビュー

”アイデンティティーを大切にすればダイバーシティーは広がる”

性的マイノリティーとして日米両国に暮らした経験のある、日英バイリンガルの日中系四世アメリカ人、キャメロンさんに、日米のLGBTQ+シーンの違いについてお聞きしました。

キャメロン・コウイチ・ジョーさん

1990年、カリフォルニア州フリーモント市生まれ。2008年、UCアーバインに入学後、ジェンダー学を専攻し、性的少数者と公言してキャンパスマガジン「Queer Under All Conditions」を発行。同大学卒業後、The Japan Exchange and Teaching Program(通称JETプログラム:外国語青年招致事業)に参加し、千葉県でALT(外国語指導助手)として4年間勤務。その後、東京都に移住し、国際交流の船旅をコーディネートするNGO団体、Peace Boatにて勤務した。

まずはじめに、LGBTQ+という観点で見た、日本の印象を教えてください。

日本で暮らして率直に感じるのは「性的少数者にとって安全な国だな」ということ。アメリカにいた時、私は立ち振る舞いが女性っぽいせいで、知らない人から「Faggot(オカマ)!」と罵倒されたり、車の中から空き瓶を投げつけられたりして、身の危険を感じることがありました。一方、日本ではそんな経験をしたことは今まで一度もありません。
 
けれども、日本で私が日本人の友達にゲイだとカミングアウトした時、相手との距離感を猛烈に感じました。多くの人が「私とは関係のない人」もしくは「関わらない方が良さそうな話題」といった反応を示し、私の性的指向についてはそれ以上話題を掘り下げようとしない人たちばかりでした。その時、日本でLGBTというトピックで話をすること自体がタブー視されているのではと思いました。
 
明らかな言葉の暴力も体への暴力もない。でも性的少数者は日本社会には溶け込めず、違う世界の人間として生きなければならないという空気感がありました。

どうして日本では、「LGBTQ+の人たちは別世界の人間」と見る傾向にあるのでしょうか?

日本では大多数と違っているものはクールじゃないという共通認識を皆が持っているからだと思います。
 
例えば日本で服を買いに行った時、店員さんに「この服、みんなが買う大ヒット商品ですよ」とよく言われますが、私はアメリカで店員さんからそんな勧め方をされたことがありません。そもそもアメリカ人は「みんなが着ている服だから良い」という発想にならないのです。
 
このように、クールなものが既に決まっているのは、日本独特の価値観なのではと私は思うんです。自分自身がどんな人でどんな性格で、そして自分自身を他人に対してどのように表現したいかはあまり重要なことではなく、とにかく大多数の人が選ぶものに同意することで安心感を得る。良いか悪いかは別として、自分という人間を深く掘り下げて考えず、自分のパーソナリティーを理解することをしない人は、「多数の人と違うものを選んだら嫌われてしまう」と考えがちで、自分を表現することに臆病になってしまう。このような行為を続けていくと、自分と大多数が違っていると気が付いて、周りに合わせられなくなった時に行き詰まってしまいます。
 
日本にいるLGBTQ+の人たちが、日本ではカミングアウトして生活しにくい原因はここにあるのではと私は感じています。

まず自分のことを深く知ることが、特に日本人には必要だということですね。

両親が日本を訪れた時に撮った写真。「一番の良き理解者は両親だと胸を張って言えるから、遠く離れていても頑張れた」と言うキャメロンさん。

私はそう思うのですが、日本に住む性的少数者の友人たちにそう伝えたら「自分のアイデンティティーについて深く考え込む時間なんてないよ」と言われてしまいました。彼らに言わせてみれば、「家族といる時の自分」「仕事場での自分」「ストレートの友達と一緒にいる自分」「LGBTQ+の友達と一緒にいる自分」と、他人に対する自分の見せ方を何パターンかに分けて暮らした方が、よっぽど効率的で相手との関係性を壊すリスクが少ないと言うわけです。
 
でもやっぱり、自分の表現方法を何パターンかに分類して暮らすだなんて本当の自分が分からなくなって、苦しいのではと感じます。アメリカで生まれ育った自分には、コミュニティーの違いに応じて自分の表現方法も変えるという発想を理解しにくいだけかもしれませんが。

キャメロンさんは日本の職場でもカミングアウトして暮らしていましたか?

もちろん。だって、性的少数者であることは自分のアイデンティティーとは切っても切り離せないことですから。実際、Peace Boatに乗船した時は地球一周の旅をしながら、人間の多様性について理解を深める講座を開きました。訪れる港ごとにさまざまな国籍や人種の人が乗船する船の上で、世界には多くの異なった考え方や価値観を持った人たちがいること、そしてLGBTQ+の当事者として性の多様性について伝えることが狙いでした。多様性を知ることは他人のアイデンティティーを受け入れ、そして自分のアイデンティティーを考えることになり、ひいてはダイバーシティーの広がりにつながっていくと思います。
 
仕事以外の場でも、つい先日行なわれた東京レインボープライドや毎年開催の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭ではボランティアとして参加したりなど、やっぱり私は「性的少数者としての私」を大切にして暮らしていました。そうなれたのは高校の女友達にカミングアウトした時、もっと胸を張って多くの人に自分の存在をアピールするべきだと、彼女が私の背中を押してくれたおかげかもしれません。

LGBTQ+映画 Pick Up おすすめ6本

性的少数者を主役にした作品では史上初めて、アカデミー賞作品賞を受賞した『Moonlight』。この映画は幼くしてゲイであることを自覚した黒人の主人公・シャロンが、少年期、思春期、青年期の世代ごとに、自分の居場所とアイデンティティーを探し求める姿を描いています。そんな今注目されるLGBTQ+の映画は本作以外にもたくさんあります。…ということで、6つほどオススメのものをピックアップしてみました。

おすすめ映画1本目

The Kids Are All Right (2010)/邦題:『キッズ・オールライト』

精子提供を通して産んだ18歳の娘と15歳の息子がいる、レズビアンカップルの家族の物語。遺伝子学上の父親に興味がある子どもたちは、母親に内緒で、精子提供者の男性に会ってしまう…。
この後紆余曲折がありながらも、タイトル通り「オーライ」な結末を迎え、同性カップルの家族だからといってそれ自体が特別なことではなく、人を愛してできた家族のカタチは普遍的なものだということを見せてくれます。
詳細:Web: www.focusfeatures.com/the_kids_are_all_right

おすすめ映画2本目

The Case Against 8 (2014)/邦題:『ジェンダー・マリアージュ~全米を揺るがした同性婚裁判~』

Photo by Diana Walker/AFER

カリフォルニア州での同性婚裁判の裏側を追ったドキュメンタリー。
同性婚が合法とされていた同州で、2008年11月、結婚を男女間に限定する州憲法修正案「Proposition 8」が成立。同性同士の結婚が再び禁止されたことは人権侵害に当たるとして州を提訴した2組の同性カップル、クリス&サンディとポール&ジェフ。彼らの法廷闘争を通して、愛とは、平等とは、結婚とは…その意味を考えます。

おすすめ映画3本目

Any Day Now (2012)/邦題:『チョコレートドーナツ』

Paul (Garret Dillahunt) and Rudy (Alan Cumming) in ANY DAY NOW. Courtesy of Music Box Films.

映画の舞台は1970年代のカリフォルニア。ゲイであることを公言するショーダンサーと、ゲイであることを隠して生きる弁護士が、ダウン症の少年を引き取って育てるという、実話に基づいた家族の物語。
でもこの家族の時間は、たった1年で幕を閉じてしまいます。法的には絆よりも血のつながりが重視されてしまうという、同性カップルへの社会の偏見を描写しています。またダウン症の少年の成長を通して、人間に大切なのはどんなハンディキャップがあるのかではなく、どんな可能性があるのかだということに気付かされます。
詳細:Web: www.musicboxfilms.com/any-day-now-movies-58.php

おすすめ映画4本目

Transamerica (2006)/邦題:『トランスアメリカ』

日本では「スカートの下に何があるかより大事なこと」というキャッチコピー付きで公開されたこの映画。
主人公は、ロサンゼルスで慎ましい生活を送るトランスジェンダーの女性で、性別適合のための最終手術への許可が降りた矢先、ニューヨークの拘置所にいる実の息子に呼び出され、アメリカ大陸を横断することになります。
体の性が変わっても親子の絆は変わらないというメッセージが込められていて、性差や父親、母親という区別を超越した、人間同士の結び付きを表現しています。
詳細:Web: www.youtube.com/watch?v=1F4Dckw274Q

おすすめ映画5本目

Brokeback Mountain (2005)/邦題:『ブロークバック・マウンテン』

舞台は1963夏、ワイオミング州のブロークバック・マウンテン。
季節労働者として雇われ出会った2人の男性、イニスとジャックは山中で共に過ごすうちに互いに恋愛感情を抱くようになっていきます。その後、2人ともカウボーイという「男らしさ」を強く意識させる職業に就き、家族に対しては「良き父親」でありながらも約20年の間、密かに想い合ってしまうというストーリー。
彼らの自由は、社会から期待される「男性」という枠組みの中でしか手に入れることができないという現実を描いています。
詳細:Web: www.brokebackmountain.com

おすすめ映画6本目

Milk (2008)/邦題:『ミルク』

ミルクと、彼の思いに共感した活動家の歴史の一部を紹介しているHarvey Milk Plaza。

サンフランシスコで1970年代にゲイの活動家として活躍し、アメリカ史上初めてゲイであることを公言して市会議員に当選、1978年に暗殺された活動家、ハーヴェイ・ミルクの人生を描いた映画。
 
政治に関わる活動家と聞くと、堅くて真面目でとっつきにくいイメージがありますが、ミルクだって一人の人間。「愛する人と幸せな人生を送りたい」という、誰もが抱く願望を持った一人の人間の愛のカタチは、30数年前も今も何ら変わりもなく、特別なものではないことを教えてくれます。
詳細:Web: http://focusfeatures.com/milk

映画『MILK』の世界 “カストロってこんなところ”

Castro Cameraのあった場所は、現在、米人権団体、Human Rights Campaignセンター兼ショップになっています。

30数年前からゲイ・コミュニティーが作られたサンフランシスコの街、カストロ。ピースフルで自由な空気感が漂うこの街には、映画『Milk』で主人公ハーヴェイ・ミルクが恋人のスコット・スミスと一緒に開店したカメラショップ、Castro Cameraの跡地がありました。
 
跡地前の歩道にはミルクの生涯を記した金属製プラークが据えられ、毎年ミルクの亡くなった日に合わせて行われる記念マーチが一時停止するスポットになっています。
 
ミルクがカメラ店を開いたのは1972年。この頃、アメリカでは同性愛は「ソドミー法」によって禁止されており、同性愛であることが警察官に発見されると、罰金を科されたり逮捕・監禁されたりする状況でした。そんな中で性的少数者同士が、公の場で愛情を表現できる街がカストロだったのです。このカメラ店では食事を持ち寄ったパーティーやミーティングがしょっちゅう開かれていたと言います。
 
最初は友達、恋愛関係で始まった絆でも、カストロという街で集まりを重ねるうちに、家族のようなもっと強い絆になる。人が人とつながる場所、コミュニティーの温かさが、カストロには残っています。

LGBTQ+ Community つながる支援団体リスト

アメリカにはLGBTQ+が悩みを抱えた時に相談できる団体がたくさんあります。LGBTQ+の当事者はもちろん、その家族や友人も利用できるサービスを提供する支援団体をご紹介します。

Bi Net USA

バイセクシュアルをサポートするNPO団体。バイセクシュアルであるがゆえに差別された経験を投稿して、思いを共有するコーナー、「Bi Stories Project」をウェブサイト内で現在展開中。当事者のほか、親や親戚からバイセクシュアルだとカミングアウトされた家族の体験談も募集しています。
対象:バイセクシュアルと自認している人のほか、性別指向や性別認識に疑問を持っている人、分類できない人
800-585-9368
E-mail: binetusa@binetusa.org
Web: www.binetusa.org

inter ACT Youth!

インターセックスの若者が設立した、インターセックスの若者のための支援団体。性別認識や性的志向による差別とはまた違った、体の性の少数者であるインターセックスの当事者同士がFacebook上でつながるきっかけの場となっています。下記ウェブサイトの指定のフォームに記入すると、メンバー加入の申請ができます。
対象:インターセックスの若者やその友人、またトランスジェンダーと自認する人
707-793-1190
E-mail: info@interactadvocates.org
Web: www.interactadvocates.org

NOH8 Campaign

カリフォルニア州最高裁で同性婚が法的に認められるとされた2008年5月15日から約半年後の11月4日、同性婚を禁止する同州憲法修正案「Proposition 8」が住民投票によって可決。この法案を人権侵害であるとして州を提訴するために立ち上がったキャンペーン団体がNOH8 Campaign。
同性婚が合法とされた現在もこの活動を支持する人が集まる場、コミュニケーションの場となっています。参加したい人は下記ウェブサイト内で展開している「BE HEARD Project」のコーナーに、自らの体験談を投稿可。
対象:全ての人間に対して婚姻の権利は与えられるべきだと考えている人
E-mail: info@noh8campaign.com
Web: www.noh8campaign.com

Transgender Law Center

トランスジェンダーの人権向上のための活動団体。トランスジェンダーの中でも、男性から女性への性適合手術をしたHIV陽性の有色人種の人が医療支援を受けにくい傾向にあることから、2015年、同団体は特別支援プロジェクトを立ち上げました。また、ウェブページから指定フォームを入力すると、雇用や住まいなどに関する悩みの相談に法的観点から乗ってもらえます。
対象:主にトランスジェンターと自認している人
510-587-9696
E-mail: info@transgenderlawcenter.org
Web: https://transgenderlawcenter.org

American Civil Liberties Union

1920年に設立された、言論の自由と人権を守るためのNGO団体。下記ウェブサイトで指定のフォームを記入して、受けた差別やハラスメントを報告、相談することができ、場合によっては法的措置を取った支援を受けることができます。LGBTQ+の当事者向けには、高校の卒業時のプロムパーティーで着たい洋服が着られないといった、性的マイノリティーの若者が日常生活の中で経験するような悩みも受け付けています。
対象:LGBTQ+の当事者はもちろん、言論の自由や人権擁護が必要な個人や団体
212-549-2500
Web: www.aclu.org

PFLAG

ゲイの息子を持つ母親が1972年に設立した、性的少数者の親、家族、友人の会。
全米50州にサポートセンターがあり、州内居住者向けに奨学金制度を設けているセンターもあります。また、団体発行の小冊子「Our Daughters and Sons」では、我が子がLGBTQ+であることを知ったときにどうするべきかなどが記されています。この小冊子の日本語訳は、日本のNPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」のウェブページ(http://lgbt-family.or.jp)で見ることができます。
対象:LGBTQ+の子どもを持つ親や友人
212-549-2500
Web: www.pflag.org

OutRight Action International

アメリカ国内外でLGBTQとインターセックス(I)の人に対する起こった差別や、権利を守るために実施された運動を報告する人権委員会。世界に住むLGBTIQの3人のうち1人は、LGBTIQとして暮らしているだけで逮捕、監禁されてしまうことや、同性カップルの存在を違法としている国が世界には少なくとも72カ国はあることなどを紹介しています。
対象:アメリカ国内外のLGBTQ+関連のニュース・出来事に興味のある人
212-430-6054
E-mail: hello@outrightinternational.org
Web: www.outrightinternational.org

※このページは「2017年6月1日号ライトハウス・ロサンゼルス版」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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