女子大学生、通学はフェリーと夜行バス  キャンパスから数百キロ、離島から大学へ通う理由

藤尾ことみさん

 島根県沖合に浮かぶ隠岐諸島の西側に位置する海士町(あまちょう)に、今春、一人の女子大学生が引っ越してきた。兵庫県朝来市出身で、大阪府立大4年の藤尾(ふじお)ことみさん(21)。遊覧船のガイドとして働きながら数百キロ離れた堺市のキャンパスに通う。新しい形のIターンだ。

 きっかけは昨夏、海士町観光協会の太田章彦(あきひこ)さん(29)が企画したワーキングホリデーに参加したことだ。島の魚介加工場の仕事を体験したときの充実感。「地域社会に貢献している」。就職活動を控えていた藤尾さんに、特に就きたい職業はなかった。「海士で暮らしたい」との思いが強くなった。

 とりあえず休学し、島に移ることも考えたが両親から反対された。「大学に通いながら暮らすのはどう?」。太田さんの魅力的な提案に背中を押された。

 1人暮らしをしていた堺市のマンションの部屋を引き払い、観光協会が管理するシェアハウスに入った。週に4回「海中展望船あまんぼう」に乗り、三つの奇岩が並ぶ名所「三郎岩(さぶろういわ)」などを、観光客に説明している。

「海中展望船あまんぼう」でガイドとして働く藤尾ことみさん(左)

 大学に顔を出すのは木曜のみ。水曜に島を出て、フェリーと夜行バスで向かう。社会学のゼミに出席し、同じ交通機関を使って金曜に島に戻る。交通費は観光協会のアルバイト代や仕送りで賄っている。藤尾さんは「卒業論文も島での経験を盛り込むつもり。大学の先生も応援してくれている」と話す。

 海士町の3月末の住民は約2200人。人口減少にあえぐ離島の自治体が少なくない中、これまでも多くのIターン者を引き込んできた。松江市出身の太田さんもそんな1人だ。

 2012年に島に移住。自らを「マルチワーカー」と称し、ホテルやイワガキの養殖の手伝いなど、島内の人手不足の現場を渡り歩いてきた。離島の食材を扱う関東のレストランの手伝いに出掛けたことも。「働く場所も職業の在り方ももっと自由でいい」と考える。

海士町観光協会の太田章彦さん

 島と他の地域を行き来して暮らす人が増えれば、1次産業などで深刻な人手不足の解決にもつながる可能性がある。太田さんは「藤尾さんの仲間がもっと増えてくれたら」と期待を掛けている。

 藤尾さんもさまざまな仕事に挑戦するつもりだ。ガイドの仕事は秋までの予定。「冬になったら何をして過ごそうか」と声を弾ませた。(共同通信=小林知史)

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