「液体のり」で造血幹細胞を増幅、東京大学などが成功

東京大学の山崎聡特任准教授らの研究チームは、スタンフォード大学、理化学研究所と共同で、液体のりの主成分ポリビニルアルコールを用いて、安価に細胞老化を抑制した造血幹細胞の増幅を実現した。幹細胞分野の基礎研究や幹細胞治療のコスト削減に多大な貢献が期待される。

造血幹細胞は全血液細胞を一生涯供給できる組織幹細胞だ。血液疾患を根治する際の骨髄移植(造血幹細胞移植)に不可欠の細胞だが、高齢化社会によりドナーは減少。研究チームは造血幹細胞を生体外で増やす技術開発を進めていた。

研究チームは、マウスの造血幹細胞を用いた研究から、細胞培養でウシ血清成分や精製アルブミン(血清中60%を占めるタンパク質)、さらには組み換えアルブミンが造血幹細胞の安定的な未分化性を阻害することを突き止めた。しかし、アルブミンのようなタンパク質を培養液に加えないと、造血幹細胞の細胞分裂が誘導できないことが問題だった。

今回、研究チームは液体のりの主成分であるポリビニルアルコール(PVA)が、高価な血清成分やアルブミンの代わりになり、しかも血清成分やアルブミンと異なり造血幹細胞の未分化性を維持したまま数ヶ月培養できることを明らかにした。造血幹細胞を未分化な状態で1ヶ月間以上も増幅培養できる報告は世界初となる。この技術により、ドナーから造血幹細胞1個を分離採取できれば、複数の患者が治療できる可能性が示された。

今回の発見は、ヒト造血幹細胞にも応用可能であると期待され、主に小児の血液疾患に対して移植処置の合併症リスクを軽減した安全な造血幹細胞移植が提供可能だ。また、幹細胞治療や再生医療への応用、医療コストの軽減が期待される。

論文情報:【Nature】Long-term ex vivo hematopoietic stem cell expansion allows nonconditioned transplantation

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