【高校野球】「何がうらやましいって…」 怪物・江川卓は「令和の怪物」佐々木をどう見た?

大船渡・佐々木朗希の登板を視察した江川卓氏【写真:荒川祐史】

岩手・一関市の練習試合を自ら足を運びチェック、スタンドのファンと会話も

 今秋ドラフト1位候補の163キロ右腕・佐々木朗希投手を擁する大船渡(岩手)が2日、岩手・一関市の大東球場で佐久長聖(長野)と練習試合を行った。佐々木は2回に長短打4本を浴びて3失点。5回に味方の失策で1点を失うなど、9回9安打4失点も、13奪三振。今年に入ってからは最多の149球を投げた。最速はメジャーのスピードガンでは153キロを計測した。

「令和の怪物」をチェックするため、球場にはもう一人「怪物」と呼ばれた男が戦況を見守っていた。2日放送の日本テレビ系情報番組「Going!Sports&News」(午後11時55分~)の取材のため、野球解説者の江川卓氏が岩手にやってきた。

 試合前は日差しが強く当たる江川氏を気遣ったファンが日傘を差し出すと「ありがとうございます。(撮影しながら見るため)影になってしまうとまずいので大丈夫ですよ」と談笑するなどシーンも。9回まで見ていたため、顔は日焼けしていた。現役時代を知るファンにとってはたまらない瞬間でもあった。

 試合後、江川氏は報道陣にも対応。佐々木の印象を語った。

「何がうらやましいかというと、(身長が)190センチあること。同じ条件で投げるのならば、私は183センチなので絶対にかなわない。190センチあった方が、角度もすごく出ますし、スピンも効く。絶対に有利。まだまだスピードが出ると思うので、楽しみですね。力んで投げているならどうかなと思ったけど、力感なく投げられている。(160キロ出すことに)なんの不思議もありません」

 他にも多彩な変化球の中でもフォークを武器として使えること、フォームでは下半身がしっかり沈んでいく中でも、肩のラインを高く保つことができる体の作りにも、驚いた様子だった。

佐久長聖との練習試合に登板した大船渡・佐々木朗希【写真:荒川祐史】

報道陣への逆質問も…「今日は抑えて投げていたのか」

 ただ、江川氏から報道陣に逆質問する場面も。この日は最速が153キロだったとはいえ、変化球中心で、ストレートも140キロ後半がほとんどだった。最速163キロのイメージとは少し離れたものだった。

「ストレートが彼の中で速くなかった。皆さんに聞きたいのですが、今日は抑えて投げていたのか、今このような球速なのかを知りたいのです」

 スピードは徐々に上がってきている段階ではあるが、佐々木の力の入れ具合は100%ではない。江川氏は作新学院(栃木)時代、試合ではすべての力を出してストレートを投げてきたという。

「自分との比較しかないので……。練習試合では全力でしたし、あまり調整ということはしなかった。どっちなんだろうなと思って見ていました。県大会まで1か月。そろそろ全力でいかないと……。そうしないと自分のバランスが難しくなる。これは(江川氏の解説者としての)研究課題。どういう風に(夏の大会に)持っていくんだろう、と。楽しみでしょうがないです」

 最近では球児への肩、肘の消耗も指摘する声が強い。時間は流れ、たくさんの調整方法も世には出てきた。今回、佐々木のように力をセーブしながら投球をし続けることを否定しているのではなく、どのような効果を生み、試合のパフォーマンスにつなげるかを江川氏は野球人として興味深く、見ているのだ。

「(試合前の)練習を見ていて、バネもありそう。バネがあれば足が上がって、そのまま沈み込んで、スピンの効いた球が投げられる。(佐々木の持つ能力に)言うことなし!なんですが、(全力投球が)見られなかったので、ちょっと残念。今日のスピード感なら、佐久長聖のようないいチームであれば、多少は合わせられる。(球速が)5キロくらい上がってくると、なかなか合わせられないと思います」

 スイングの鋭い佐久長聖打線に痛打される場面もあれば、150キロを連発して力で打ち取るシーンもあった。2ストライクまで簡単に追い込んで、最後をフォークで空振り三振……など、いろいろなことを試している印象はあった。

 多くの可能性が右腕にはまだまだある――。元祖・怪物は令和の怪物の力をさらなる飛躍を期待していた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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