特定枠導入と比例定数4増・埼玉選挙区定数2増について詳しく解説|今回の参院選から適用される、改正公職選挙法のポイント

今回の参院選で、大きく変わることが2つある

今年の夏に行われる、第25回参議院議員通常選挙(以下、今年の参院選)では、これまでの参院選とは大きく異なるポイントが2つあることをご存じでしょうか。2017年7月、公職選挙法の一部を改正する法律が成立し、公布された結果、今年の参院選から選挙制度と定数が変わるのです。
今回はその大きな2つのポイントである、埼玉選挙区定数2増、および特定枠について詳しくご説明します。

以前から指摘されていた「1票の格差」の是正

まず、埼玉選挙区の定数が2増えたことについてです。これは以前から最高裁で指摘されていた「1票の格差」という問題を、是正するために導入されました。

では、「1票の格差」とはなんでしょうか。なぜ問題なのでしょうか。
格差、というのは一票の価値の差を意味しているのですが、一票の価値は「議員1人あたりの人口=選挙区の人口÷議員定数」をもとに計算されます。単純化して説明すると、参議院選挙のA選挙区からは1名の議員が選ばれ、人口は60万人です。対して、同じく1名の議員が選ばれるB県選挙区の人口は20万人です。仮に投票率が全く同じであれば、A選挙区の候補が当選するためには、B選挙区の候補の3倍の得票が必要になります。逆に言えば、B選挙区の有権者は、A選挙区の3分の1の票数で参議院議員を誕生させることができます。これが「1票の格差」です。
前回の参院選において、議員1人あたりの人口が最も少ないのは福井県(約39万人)、最も多いのは埼玉県(約120万人)でした。福井県の有権者の一票は、埼玉県の有権者に対して3.087倍の価値があると考えられます。こうした差は憲法が保障する「法の下の平等」に反するとして、衆参の国政選挙において、選挙の無効を求める訴訟が繰り返し提起されてきました。そのなかで最高裁は格差として許容できる基準を「参議院は最大3倍」としています。3倍以内に収まるようにするために、いま定数6(改選3)となっている埼玉県の議席数を2増やして8(改選4)にするという改正が行われたのです。これが、今年の参院選で変わるポイントの1つ目です。

賛否ある「特定枠」の導入と比例代表の定数4増

続いて、今年の参院選から導入される「特定枠」についてです。
これを理解するためには、「合区」という言葉を理解しなくてはなりません。

「ごうく」と読みますが、この「合区」も、1票の格差にかかわる制度です。先述した通り、選挙区における議員一人当たりの有権者数が多い、少ないで一票の価値が変わってしまいます。先ほどの埼玉の場合は、議員一人当たりの有権者が多かったために定数を2増やしたという話でしたが、議員一人当たりの有権者があまりに少なく、定数を減らすだけではどうにも調整できない、という事態が起こりました。そのため、2つの選挙区をまとめて1つの選挙区とし、議員一人当たりの人口を増やすことで一票の格差を是正しました。このように2つの選挙区をまとめて1つにした選挙区が合区です。

島根・鳥取選挙区、高知・徳島選挙区の定数はそれぞれ2。半数ずつ改選されるため島根・鳥取/高知・徳島からそれぞれ1人が今回選ばれる。

2015年7月、参議院の選挙制度改革が行われました。ここで初めて合区が導入され、実際に2016年の参院選では、鳥取県と島根県、そして高知県と徳島県が合区とされ、実施されたのです。この合区によって、これまでは一つの県から最低一人の参議院議員が選挙ごとに選ばれていたのが、二つの県で一つとなり、議員が一人、“失職”することになったのです。その救済措置として、政党が事前に定めた順位に従い当選者を決める「拘束名簿式」を一部に導入する。それが「特定枠」です。
参議院の比例代表選挙では、有権者は投票の際に「政党名」を書くか、もしくは「候補者名」を書くことができます。投票後、各党が獲得した議席の枠の中で、「候補者名」が書かれた票が多い人から順に当選していきます。このシステムを、「非拘束名簿式」といいます。政党が獲得した議席の枠の中で、多くの個人名票を得られた順に当選できるからです。党が名簿順位を決めるのではなく、立候補者個人の得票数によって単純に順位が決まり、多くの票を得た人から当選していくという仕組みです。これに対し、衆議院の比例代表で採用されている「拘束名簿式」は、政党が候補者の順位をあらかじめ決める制度です。これを「特定枠」として、各党が名簿順位上位の候補者を指定できるようにするというのが2つ目のポイントです。

「特定枠」によって、自民党や立憲民主党などの政党で「名簿1位・2位」となれば、ほぼ100%当選できるようになります。なぜわざわざこんなややこしい制度を導入しようとしているのかというと、先述した合区で議員がいなくなる地域への救済措置ともいえます。
たとえば「島根・鳥取選挙区」で島根県が地盤の候補が立候補するとすれば、鳥取県が地盤の現職は選挙区で立候補できないため、比例区にまわって「名簿1位」に記載してもらいます。当選が保証され、党の地域支部の不満も収まるというわけです。定数を4増やすのは、参議院は半数改選なので、改選数で2×2=4増だからです。その結果、合区の二つの県から1人ずつ当選させることができるようになります。

一つ例を考えてみましょう。
この例では、3人当選することができ、特定枠2とします。

特定枠導入までの場合、当選者は9,000票獲得したD氏、8,000票獲得したC氏、7,000票獲得したF氏でした。
しかし、特定枠2があるために、実際は5,000票しか獲得できなかったA氏、6,000票しか獲得できなかったB氏が優先的に当選、そして9,000票獲得したD氏当選、となります。

「特定枠」について、現在指摘されている問題点とは

この特定枠については、各方面から賛否両論あります。
まず、この特定枠記載されている候補者は選挙運動ができないということ。つまり、通常選挙運動期間になると街頭演説をしたり、選挙カーで回ったりしますが、そういう活動を一切行えないのです。そのため、その人が特定枠で当選したとしても、国民の民意は反映されていないのではないかという指摘があります。

また、この仕組み自体がわかりにくいという批判もあります。非拘束名簿式にもかかわらず、特定枠の人は実質「拘束名簿式」となっています。実は、過去に日本で参院選に、この「拘束名簿式」という、今とは異なる制度を導入していたことがあります。
それは、参院選の比例代表で有権者は「政党名のみ」を書いて投票し、政党はあらかじめ「当選させたい人」を当選させたい順に並べて名簿にしておくのです。そして、政党が得られた議席の枠で、上からどんどん当選していくというやり方でした。しかし、それでは政党が当選させたい人を選んでいて、必ずしも国民が投票させたい人と一致するとは限らないため、現在の非拘束名簿式でのやり方に変更されたという経緯があります。それを踏まえると、特定枠は部分的に拘束名簿式になっているので、導入するのに懐疑的な見方もあります。

そのほか、1票の格差の是正につながらないのに、議員の定数を増やすという観点からの批判もあります。議員の定数が増えるということは、国民の税金が余計に議員報酬に使われるということです。また、人口減少に伴い、地方議会が定数削減を進めているにもかかわらず、その流れに逆行しているという反発もあります。

参院選に関心を持ち、自らの視線でチェックを

今回は、今年の参院選における重要な2つのポイントを紹介しました。衆参W選挙の話題も取りざたされる中、1つ1つの話題に意識を向け、自分の考えを持つということは大変かもしれません。しかし一人の有権者として、政治を今一度自分なりの視点でチェックする姿勢を持つことも、重要なのではないでしょうか。

2019年7月3日 追記:

  • 特定枠に記載された候補者名を記載して投票した場合について、解説を追記しました。*

 

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