『実験思考』光本勇介著 ぶっ飛んだサービスを作りたい

 普通サイズの本書の値段は税抜き390円。安いでしょ。というのも、これは「本の値段を読者に任せたら定価販売より儲かるか」という実験なのだ。巻末のQRコードからサイトに飛んで“実感価格”を支払う。無価値と思えば払わない。利益の半分は新しい実験の挑戦者にプレゼントするという。

 起業家の著者はこんなふうにビジネスすべてを実験と見なし、次々と新サービスを世に送り出してきた。なかでも業界の度肝を抜いたのは、売りたいモノを写真で撮ると金額が表示され、即座に口座に現金が振り込まれるアプリ「CASH」だ。24時間で3.6億円をばらまいた。

 利用者は現物を送ってくるのか?と誰もが心配するだろう。ところが実験結果は次々荷物が届き、「人間は意外と信用できる」。

 このアイデアを延長すると、駅の自動改札機をなくせるかもしれない。不正乗車による損害よりも改札機導入のコストが大きければ、改札機はないほうが儲かることになるからだ。

 こうした「性善説に基づくサービス」がビジネスとして成立すれば、人を疑うことを前提とした今の経済パラダイムが変わるかも――。

 そんな型破りの発想で著者が思い描く実験ビジネスがとびきり面白い。モノの価値を瞬時に金額に“翻訳”するサービス、労働で返す消費者金融、給料先払いサービス。モチベーションは「世の中にないぶっ飛んだモノを作りたい」。

 ちなみに本書には発行から3週間で約1800人、総額9千万円近くが支払われている。実験成功だ。

(幻冬舎 390円+税)=片岡義博

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