守りたいのは

 スコットランド民謡に明治期、日本語の歌詞が付けられたという。〈ほたるの光 窓の雪…〉の「蛍の光」の4番の歌詞は知られていない。〈千島のおくも 沖縄も 八洲(やしま)のうちの守りなり…〉と歌われる▲「八洲」は日本を言う。夫よ兄弟よ、国土の隅々までつつがなく守っておくれ、という意味の歌詞が続く。その時代、北方4島が日本の領土であることに疑いの余地はなかったろう▲時を経て、先の戦争を境にロシアが島々を実効支配し、日本人は島を追われた。元島民は「ビザなし交流訪問」を通じて難問解決の下地づくりに努めてきた▲その元島民に「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか」と尋ねたりした丸山穂高衆院議員への糾弾決議を、衆院は全会一致で可決した。「国会議員の資格はない」と断じている。与党は、猛省を促す程度の決議案にとどめていたが、参院選が近まり、国民の不信の目を恐れて強い姿勢に転じたらしい▲丸山氏発言は憲法の平和主義に反する。返還交渉に悪影響しかない。何よりも、片を付けるなら戦争で、と元島民をけしかけるような言動はあまりにも乱暴で、積み上げてきた交流をむげに否定するにも等しかろう▲元島民がつつがなく守りたいのは島への愛着に違いない。北方の島々を包む濃霧を心ない所作がいっそう深くする。(徹)

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