Evoモデル投入での持ち味が進化したホンダNSX GT3。道上龍「昔のNSXとは逆の発想」/GT300マシンフォーカス

 14車種29チームがしのぎを削る2019年のスーパーGT300クラス。そのなかから1台をピックアップし、マシンのキャラクターや魅力をドライバー、関係者に聞いていく連載企画。2019年シーズン第1回目は、2018年にシリーズデビューを果たし、この2019年から“Evoモデル”となったホンダNSX GT3をピックアップ。初年度から同マシンを使うModulo Drago CORSEの道上龍に、Evoモデルの特徴を聞いた。

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 2代目のホンダNSXをベースとするNSX GT3は2018年からグローバルなレース活動を展開。スーパーGTにも同年から参戦している。

 市販モデルはハイブリッド+4WDのパワートレインを積んでいるが、GT3ではハイブリッドシステムを非搭載にすると同時に、駆動方式を2WDに変更。心臓部となるエンジンは市販車同様の3.5リッターV6ツインターボで、ミッドシップレイアウトが採用されている。

 過去、国内外のレースシーンでNSXが築いてきた栄光をご存知であれば“NSX=コーナリングマシン”というイメージが先行しがちだが、このNSX GT3はそうではない。3.5リッターV6ツインターボエンジンから発せられる強大なパワーを活かし、ストレートの速さなど“縦を意識した”走りが求められるマシンだ。

Evoモデルとなり、フロントスプリッターも改良された
Evoモデルの改良ポイントであるリヤディフューザー

 そんなNSX GT3に改良バージョンの“Evoモデル”が登場し、この2019年シーズンから実戦デビューを果たしている。Evoモデル最大の特徴はフロントスプリッター、リヤディフューザー、リヤバンパーが新設計となったこと。

 この新空力パーツ導入でドラッグの低減、空力バランスの最適化、ブレーキスタビリティの向上が図られている。そのほか、ボッシュ製のABSや新型ターボチャージャーも導入された。

 2018年末のセパンテストに、このEvoパーツを持ち込んだ道上は「基本的に去年のバランスからすると、どうしてもリヤのグリップレベルがあまり高くはないんです。良いときは良いんですけどね」と従来モデルのウイークポイントを明かす。

「(エンジンなど)重さ(のあるもの)が後ろにあるので、タイヤが摩耗してくると、どうしてもリヤが流れてしまうこともあります。重量配分的にリヤの安定感がなくなって、ターンインやブレーキングの場面でバランスが取れない、悪いということが去年はありました。それがEvoモデルになって、いくぶん改善されたかなというところですね」

「去年からずっと後ろのグリップ感には違和感を抱いていて、なんとかそこを改善したいと思っていました。そしてEvoモデルがそういう方向(リヤのスタビリティ改善)で開発されたものだったことから、(オフシーズンに)セパンでテストをしたんです。クルマとしてはリヤのグリップ感は上がっているというのが第一印象でしたね」

富士スピードウェイを走るModulo KENWOOD NSX GT3

「富士(スピードウェイ)も場所によっては後ろの安定感が増している印象です。去年、もう少しスタビリティがほしいと思っていたセクター3などで(安定感が)増えていた感触です。その変化を感じにくい場所もありますけどね」

 Evoモデルの登場でパフォーマンスに改善がみられたNSX GT3だが、「ストレートは速い。コーナーはそこそこ」という特徴は変わっておらず、例えばテクニカルレイアウトである鈴鹿サーキットなどでは、コーナリングに関してライバルチームが使用しているメルセデスAMG GT3の方に分があると感じるという。

 また、新型ターボチャージャーが導入されたエンジンについても、燃費面で不利な面を抱えている点も変わっていない。

「(鈴鹿の)コーナリングという部分でいうと、メルセデス(AMG GT3)の後ろにつくと(メルセデスのほうが)速いですし、ラインの自由度も高い」と道上。

鈴鹿サーキットを走るModulo KENWOOD NSX GT3

「僕たちは(コーナリング中に取れる)ラインは1本で、警戒しながら走らないといけないという状況になってますね。予測がつきにくいフィーリングなんです。そこを改善することが課題です」

「(テストも含めて)しっかりと走り込んだのは岡山と富士だけですけど、ほかのコースはEvoになってから感触はいいんですよ」

「あとはもっと速さを身につけないといけない。どうしても燃費が悪くて。これも去年から続いている状態ですね。ブランパンGTのように(ピットでの)停止時間が決められていれば問題にはなりませんけど、スーパーGTのようにタイヤ交換も給油もレースの勝敗にかかわる要素になっていると、燃費の悪さは厳しい」

「タービン(ターボチャージャー)が変わったことは、燃費にも多少影響しているでしょうけど、大きな改善は感じられませんね。距離の長いレースだと、いくら速く走ってもピットで奪い返されてしまうパターンが起こりやすいのが現状です」

「今のNSXは“ストレートは速い。コーナーはそこそこ”。昔とは逆になっているイメージです。だから、富士はNSXと相性が良いんですよ。ターボや(標高による)気圧の関係もあって。昔では考えられないですよね」

「今、GT300をNSXで戦っていると昔と逆の発想になります。ストレートはむしろ楽というか、ここで追いつけますから。ただコーナーが入ってくると苦しくなる。だからこそ、リヤのスタビリティや蹴り出しは重要で、そこでフラッとリヤがぶれてしまうと、速いストレートも活かせなくなるんですよね」

 以前からの持ち味であるストレートの伸びを活かすようなアップデートが施されたNSX GT3のEvoモデル。長距離レースで燃費面での不得手も増えるが8月の第5戦富士、昨年表彰台を獲得した第6戦のオートポリスなどでは、優勝争いの一角を担うことになりそうだ。

Modulo KENWOOD NSX GT3のサイドビュー
Modulo KENWOOD NSX GT3のサイドビュー

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