宮城の医療的ケア児 通学バス たん詰まらせ死亡 長崎県内の保護者からは看護師の同乗求める声

たんの吸引が必要な生徒のために看護師が同乗している平戸市の通学支援バス=2018年9月18日、長崎県平戸市内

 5月中旬、宮城県の特別支援学校の通学バスで、難病の筋ジストロフィーを患う高等部の生徒が喉にたんを詰まらせて窒息し、間もなく亡くなった。同乗していた保安要員が119番通報したが、国は安全確保の徹底を全国の自治体に通知。長崎県内でもたんの吸引や胃ろうによる栄養摂取など医療的ケアが必要な子ども「医療的ケア児」が通学バスや福祉タクシーを利用しており、保護者からは看護師の同乗を求める声が上がっている。

 宮城県教委によると、生徒は5月17日午前8時すぎに乗車したが、顔色が悪かったため、保安要員が学校に携帯電話で連絡した。学校側は担任と養護教諭を車で現場に向かわせ、保安要員は学校の指示で119番通報。異変に気付いてから16分後だった。通報から13分後に救急車は到着したが、既に生徒は心肺停止の状態だった。宮城県教委は通報までの時間と死亡との因果関係は不明としている。

 生徒は普段から1日3回程度、校内でたんの吸引を受けていたが、医師からは「体調が良ければバス通学は可能」と言われ、約10年間利用。バスは民間に委託しており、見守りなどの保安要員として社員1人が同乗していた。

 長崎県内では、平戸市が県立佐世保特別支援学校(佐世保市)まで通学支援バスを走らせ、たんの吸引が必要な子どものために看護師を同乗させている。平戸市の担当者は「たんの吸引が必要になればバスを安全なところに停車させて処置する。容体次第ではすぐに119番通報し、病院が近ければバスで向かうようにしている」。たんの吸引が必要な長崎県内の小学3年男子の母親は「宮城県のバスにも看護師が同乗し、適切に処置していれば助かったのではないかと思うと心が痛む」と話す。

 長崎市も本年度から、保護者が体調不良などでマイカーを運転できず、福祉タクシーなどで子どもを通学させた場合、その料金を助成する制度をスタートさせた。ただ、看護師らの付き添い費用は全額自己負担となるため、保護者の経済的負担は大きく、同乗する看護師らの確保が難しいという課題もある。子どもだけ乗せるかどうか迷った末、安全面から利用を取りやめる保護者も少なくない。

 一方、看護師らを付けずに利用した保護者もいる。てんかん発作のリスクがある小3男子を福祉タクシーに乗せた母親は「発作が出たと思ったらすぐに救急車を呼ぶようタクシー会社にお願いした。万が一のことを考え出したら利用できない。迅速に119番通報してくれると信じるしかない」と言う。

 医療的ケアを実施している長崎県立の特別支援学校のスクールバスは、安全確保の面からケア児は原則対象外。ただし車内でケアの必要がない場合などは校長の判断で乗車できる。通常、授業補助などをしている学校職員が介助員として同乗するが、学校看護師は「校内業務を安全に実施する」などの理由で乗せていない。長崎県教委は宮城県のケースを受けて各校に国の通知を周知し、容体急変時はただちに救急車を要請するなどの対応を徹底するよう求めたという。

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