意外に多いNPBでプレーする米ドラ1選手 カーショーやシャーザーと同期指名も

ソフトバンクのカーター・スチュワート【写真:藤浦一都】

今から40年以上前、日系3世のタツノはドラフト指名を蹴り社会人のプリンスホテル入団

 今年も6月3日~5日にかけて、MLBではアマチュアドラフトが行われ、有望なアマ選手がMLB球団に指名された。MLBのアマチュアドラフトは、毎年10月に行われるNPBのドラフトとは中身もスケールも大きく異なっている。

 NPBのドラフトで指名されるのは、育成ドラフトも含めて全体で100人前後だが、MLBは各球団が40人前後を指名するので、全体で指名されるのは1200人にもなる。これだけの選手を指名するので、1日では終わらない。NPBのドラフトは12球団の監督やフロントが一堂に会して公開イベントとして行われるが、MLBの場合、昔は電話会議、今はオンラインで次々と選手が指名される。GMなどのスタッフは球団のオフィスで延々と指名を続ける。

 MLBのドラフトは、アマチュア選手を各球団が指名する「アマチュアドラフト(ルール4ドラフト)」の他に、マイナーリーグでくすぶっている有力選手を各球団が指名する「ルール5ドラフト」がある。

 このほどソフトバンクに入団したカーター・スチュワート・ジュニア投手は、2018年のアマチュアドラフトで1巡目、全体8位でブレーブスに指名された。しかし、メディカルチェックで手首に懸念が見つかり、それによって契約は合意に至らず。2019年もドラフト上位指名は確実と言われたが、このドラフトを回避し、ソフトバンク入りを決断した。

 MLBのドラフト1巡目選手が、MLB球団を経由せずにNPB球団に入るのは前代未聞だ。

 今から40年以上前、ハワイ出身の日系3世デレク・タツノという投手がいた。高校時代からたびたびMLBのドラフトで指名される有望投手で、高校3年のときにはレッズからドラフト6巡目で指名された。入団せずにハワイ大学へ進学した。

 日米大学野球でも大活躍を見せ、1979年にはパドレスから2巡目指名を受けたが、これも入団せず、日本のプリンスホテルに入った。その後、1982年1月のMLB2次ドラフト(現在は存在しない)でブルワーズに1巡目指名され、ようやく入団に至った。だが、タツノは制球に難がありメジャー昇格を果たせぬまま、現役を退いた。

カーショーと同じ年に1巡目で指名された2人は…

 MLBのドラフト1巡目指名選手は、なかなかの高確率で“出世”している。ざっと見渡しても、2009年ドラフト全体1位のスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)、2010年全体1位のブライス・ハーパー(フィリーズ)、全体3位のマニー・マチャド(パドレス)、2011年全体1位のゲリット・コール(アストロズ)、8位のフランシスコ・リンドーア(インディアンス)、2012年全体1位のカルロス・コレア(アストロズ)、2013年全体2位のクリス・ブライアント(カブス)など、数年後にスーパースターになった選手が数多く出ている。

 一方で、ドラフトで全体1位、いの1番で指名されても、メジャーに昇格することなく引退している選手も少なからず存在している。そして日本に来ている外国人選手の中には、実はMLBのドラフト1巡目選手が意外に多い。

 オリックスのクリス・マレーロは2006年のナショナルズ1巡目指名(全体15位)選手。また、広島のクリス・ジョンソンは同年のホワイトソックスの1巡目指名(全体40位)、ヤクルトのデーブ・ハフは同じくインディアンスの1巡目指名(全体39位、ともに補足指名)だった。

 この2人は、クレイトン・カーショー(ドジャース)やティム・リンスカム(前レンジャーズ、現FA)、マックス・シャーザー(ナショナルズ)らと同期にあたる。巨人のテイラー・ヤングマンは2011年ブルワーズの1巡目指名(全体12位)。かつて広島に在籍したブライアン・バリントンは2002年のパイレーツに1巡目指名され、全体1位指名だった。彼らはメジャーには定着できず、日本に活躍の場を求めた。

 ドラフト1巡目だからと言って、将来が約束されているわけではないのは、MLBもNPBも変わらない。過酷なマイナー生活や年俸調停資格を得るまでの低い契約条件も現実問題としてあるMLBの世界。MLBのドラフト上位指名を蹴ってNPBを選択したソフトバンクのスチュワートは、新たなルートの開拓者となるだろうか。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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