常勤医不在遺族ら当惑 八代市の老健施設 「現場ばたばた」大量離職も

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常勤医不在の4カ月間に11人の入所者が亡くなった介護老人保健施設「アメニティゆうりん」=8日、八代市

 常勤の医師が不在だった4カ月間に、11人の入所者が施設内で死亡していた八代市の介護老人保健施設「アメニティゆうりん」。法令違反を知った遺族からは、当惑の声が上がる。一方、施設関係者は労働環境の課題が利用者への医療や介護サービスに影響した可能性を指摘。熊本県は7日の会見で「多くの職員が辞めており、運営法人理事長と現場が課題を共有できていたとは思えない」と断じた。

 「医師がいたら、もう少し長生きしてくれて、もう一度話ができたんじゃないか」-。入所していた80代の父親を昨年3月に亡くした男性(59)はそう話す。常勤医がいない時期と、父親の具合が悪くなった時期が重なる。「いまさら責めるつもりはないが、適切な処置がされただろうかとも考える」

 施設は医療法人社団「優林会」(林邦雄理事長)が運営。昨年2~5月の4カ月間、常勤医が不在だったとして、県から2度にわたり是正勧告を受けた。県は、その間に死亡した11人のうち80代の女性が死亡当日にゼリーをのどに詰まらせる事故があったと認定。家族に報告していないなど当時の対応に問題があったとして是正を勧告した。

 林理事長は「勧告事項をできるだけ早く改善し、県などと連携し、地域に求められる役割をしっかり果たしたい」としている。

 県は、医師不在と死亡の因果関係を否定しているが、遺族の思いは複雑だ。90代の母親が入所していた女性(72)は、容体急変の連絡で駆け付けると、この時期に診察を担っていた医師の林理事長も到着したばかりだった。既に息を引き取っており、林理事長が死亡を確認。「前日まで元気だったので意外に思った。年齢を考えると仕方ないと思っていたが、医師がいなかったんですね…」

 熊本保健科学大地域包括連携医療教育研究センターの竹熊千晶教授は「法令順守は当然のことだが、責め立てるだけでは何も解決しない。慢性的な人手不足の中、高齢者医療の在り方を社会全体で考える必要がある」と指摘する。

 施設では労働環境に不満を持つ人は多かったとみられる。関係者の証言を総合すると、14~18年の5年間に少なくとも管理職17人を含む42人が離職。元職員の一人は「理事長宅の風呂掃除やトイレ掃除など、本来の業務以外の仕事をさせられた」。別の元職員は「法人理事から昼夜問わずLINE(ライン)で指示された」と訴える。

 県も「医学的な知識のない法人役員の口出しで、経費圧縮が現場に求められていた」「家に帰れる判断が出た人にも退所を認めないケースもあった」などの証言を聞き取ったという。

 常勤医が辞める前の昨年1月に90代の母親を亡くした男性(76)は「介護士や看護師が不足していたようで、常にばたばたしていた」と施設内の印象を話す。(中村悠、松本敦、林田賢一郎)

(2019年6月9日付 熊本日日新聞朝刊掲載)