旋盤加工で産業機械の部品製造 藤沢精工 佐世保から世界へ 工業会企業の「技術力」・10

NC旋盤を使った、巻き上げ機の大型ワイヤドラムの加工=佐世保市白岳町、藤沢精工

 工作機械のハンドルを回し続けた右手は分厚く、ごつごつとしていた。男性は今年75歳。ものづくりに懸けてきた人生を物語る。
 佐世保市内の中学を卒業した藤澤伸美氏は、町工場が集積する東京都大田区で旋盤工として働き始めた。旋盤は切削加工の一種。円筒や円盤状の金属を回転させ、「バイト」と呼ばれる刃物状の工具を当てて削る。“職人の勘”を頼りに0.01ミリ以下の精度を目指した。
 負けん気が強く、よく先輩とぶつかった。6年8カ月で仕事は37回変わった。貧しい実家を支えるため22歳で佐世保に。「親を楽にさせたい」。そんな思いで独立を目指し、工作機械の基礎を学び直し、金融も勉強した。
 帰郷して10年後の1977年。国内はオイルショックに伴う不況に見舞われていた。周囲の反対を押し切って10月に兄と藤沢精工を創業。当時はトイレや水道もない粗末な工場だった。
 技術力は口コミで広まり、大手企業と取引をできるようになった。情に厚かったが辛酸もなめた。2008年。経営に苦しんでいた取引先を助けるため仕事を受注したが、代金2千万円は支払われず音信不通に。同じ年には長年納品をしていた会社が倒産。約6千万円の未収金が発生した。「連鎖倒産」の文字も頭をよぎった。それでも培った技術や信頼といった強みで乗り越えた。
 「旋盤加工ならほぼ何でもできる」と自負する。大型の製品を立型で加工する縦旋盤(ターニング)や、金属の穴の内面を高精度で決められた大きさに加工する横中ぐり盤もそろえ、特殊な製品にも対応する。
 産業機械のシャフトやローラーコンベヤーのプーリー(滑車)といった部品を手掛ける。東京スカイツリー建設に使われた、ジブクレーンのワイヤロープの巻き上げ機も製造。「町工場」は大手メーカーを支え、暮らしを豊かにしてきた。
 製造現場は、プログラミングで工具の位置や回転数を制御するNC旋盤が主力になった。昨年12月、長男の藤澤康生氏(50)に代表取締役社長の座を譲り、代表取締役会長に。康生氏は「変える必要性を訴え、今も(会長と)ぶつかっている。社員に報い、佐世保に貢献できる会社にしたい」。
 創業の精神を守りつつ、いかに変革するのか-。バトンは新たな手に引き継がれる。 

タイヤ製造機械に使われるリング(手前)や産業機械のシャフト、ローラーコンベヤーのプーリーなどの製品

◎藤沢精工
 佐世保市白岳町。1977年10月に藤澤伸美氏が創業した。昨年12月に藤澤康生氏が2代目の代表取締役社長に就いた。従業員は35人(2月現在)。主な取引先は三菱長崎機工、相浦機械、西部技研、JFEプラントエンジ、JFEエンジニアリング、伊万里鉄工所、ニッチツなど。

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