『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』 変化繰り返し続く市場

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 本の主役は、那覇市第1牧志公設市場界隈(かいわい)で店を営む店主たちだ。店の歴史は店主の人生そのものであり、本人の意志だけでなく、家族との関係や沖縄の世相が人生を動かしてきた。それぞれの事情がかたちを成したのが店だから、市場の店は一軒一軒が独特で、来る人をひきつけるのかもしれない。

 果物店、食肉店、鰹節(かつおぶし)店、化粧品店、紙商店、食堂。どの店も、忙しすぎて深夜まで働いたり子育てに追われたりお客さんが減ったりとその時どきの苦労があり、今もこの先もあるだろう。それでも、28年後に100周年を迎えるとか、「あと20年は続けたい」とかいう発言がさらりと出ていて驚いた。その覚悟に恐れ入っていると、楽しみは相撲、カラオケ、といった話題もあってほっとする。

 公設市場の建て替えを間近に控えての取材なのに、それに触れている店主が少ないのも意外だった。昔の市場について「今みたいに立派な建物じゃなくて、トタン葺(ぶ)きでボロボロだったよ」「天井もないような市場だった」などと語られるのを読んでいると、今回の建て替えは大きな節目ではあるものの、変化をくり返して続いていくのが市場なのか、とも思えてくる。

 店主の語りのあいまには、時代背景や地理の解説が入るので話が理解しやすい(『琉球大学農学部学術報告』に発表された論文など、どこから探してきたのかと思うような文献も引用される)。人の語りと本の記述を照らしあわせることで、当時の市場が立体的に浮かびあがる。

 私は公設市場の向かいで古本屋を営んでいる。市場界隈の店主たちに、商売のしかたも市場の歴史も教わった。店先でとぎれとぎれにしか聞けなかった話が、しっかりと記録されて嬉(うれ)しい。東京から市場に通いつめて取材した著者には頭が下がる。

 まえがきに「移り変わってしまったあとで懐かしむのではなく、そこにまだ市場があるうちに本を出版できたら」とある。本書片手に市場界隈を歩いて、歴史の厚みを感じたい。現市場の営業は6月16日まで。

 (宇田智子・市場の古本屋ウララ店主)

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 はしもと・ともふみ 1982年広島県東広島市生まれ。2007年に「en-taxi」(扶桑社)に寄稿し、ライターとして活動を始める。今年1月に「ドライブイン探訪」(筑摩書房)を出版した。

市場界隈 那覇市第一牧志市場界隈の人々posted with amazlet at 19.06.09橋本 倫史

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