着物姿でさっそうと走り抜けるこの男、何者?!山好きが作った究極の登山ウェアがやばい 山で見かけた着物姿の男。重い荷物を抱え、さっそうを走る姿に、「忍者!Ninja!」という声が。みなさんは「山で着物」ってどう思いますか?”暑そう…動きづらそう…山には向いてないでしょ。”そんなイメージを覆す、山用の着物「山着」が登場。その道のプロフェッショナル達が作るその山着は、夏の3000m峰でも対応している、超ハイスペックの登山ウェア。その全貌やこだわり、作成に至った経緯など、山着の魅力に迫ります。

「Ninja!!」そんな声が聞こえ、ふと振り返ると…

ある日の八ヶ岳。いつも通りに登山を楽しんでいると、後ろから「Ninja!Ninja!」という外国人の声。

「………忍者?」

不思議に思い振り返ってみると、着物姿の男性が。

背中に大きなザック、足元には地下足袋を履き、さっそうと下って行きました。

古くから信仰登山が行われてきた日本。今でも山中で修行をする修験道の行者や、四国のお遍路など、着物のような服を着て歩く姿を見かけることはありますが、どちらも「白」ベースの着物。さっきの黒い男性はなんだか様子が違うぞ…。

思わず声をかけてみると、実はこの着物を着ていた方、かなり本格的なヤバい方だったのです。

なんでこんな服作ったの?

山で見かけたこの黒い着物、みなさんが想像している着物とはワケが違います。
「山で着るために作られた」「山好きのための登山用の着物」、通称「山着(やまぎ)」。実は厳しい山の環境にも対応できる、ハイスペックな登山ウェアなんです。

(左:金子さん、右:山忍さん)

噂の山着を作成しているのは、RUMIX DESIGN STUDIO(ルミックスデザインスタジオ)店長・金子さんと、山忍さんの二人。RUMIX DESIGN STUDIOは、数多くの着物制作を行うデザインスタジオ。そして山忍さんは、先祖代々続く、歴史ある家系に生まれた古武術家。表と裏の世界を行き来する仕事人のため、顔出しNGという謎多き男です…。

編集部
川尻

さっそくですが…
スゴイ物作りましたね!正直「この人たち何やってるの?!」と驚いてます。

山忍さん

笑。そうですよね、他の人から見たら「変な人がいる!」ですよね。

金子さん

本人たちはいたって真面目なんですけどね。笑

編集部
川尻

ありきたりな質問かもしれないですが、、なんで作ろうと思ったんですか?

山忍さん

聞いちゃいます??僕が欲しかったんです。
その時に「作れる?」って試しに金子に聞いたら、「作ってみようか」って。

編集部
川尻

え………。

金子さん

話を聞いたら「面白そう」って思って。何気ない会話から、トントン拍子にここまでスムーズに来たよね。

山忍さん

たしかに!最初の構想から、ほぼ修正なくリリースまできたよね。

編集部
川尻

思つきからの、ほぼ修正なし……。

そうです、この二人。ふざけているようで、かなりのプロフェッショナルだったんです。

山着の原点にある”動き”

山忍さんは高校山岳部出身。登山者なら憧れる数々の名峰をいくつも踏破している、ゴリゴリの登山者なんです。その後も登山を続け、様々なアウトドアメーカーの登山ウェアを着てくうちに、いくつかの想いが芽生えてきたと言います。

登山ウェアでは出来ない動きがある

山忍さん

今でいう道場で行う剣術と、戦国時代の合戦場で実際に戦っていた頃の流派って、走り方や足の運び方など、そもそもの動きが全然違うんです。
僕は後者の武術を小さいころから行っていたので、いわゆるアウトドアブランドさんのウェアの作りだとできない動きがある事に気づいたんです。

編集部
川尻

動きが違う、ですか?
できない動きって実際にどういう事ですか?

山忍さん

特に海外のメーカーさんだと、彼らが想定する”西洋的な動きに沿った作り方構造”になっているんです。横の動きはスムーズだけど、縦の動きは突っ張る感じがする、とか、歩き方も違うのでその足の運びが出来ない、とか。
その点、着物は動きを全く妨げないんですよね。

編集部
川尻

武術をやっていない人は、山忍さんがおっしゃる動きはしないので、気にならないのでは?

山忍さん

あー…自然にその動きになっていく、が正解だと思います。山着を着ようと思うと、自然と足元は地下足袋になります。地下足袋で登ろうと思うと、登山靴のソールと違うので足の使い方がおのずと変わってくるんです。
もちろん”山着+登山靴”でもいいのですが、足袋で歩いたほうが、足運びはきれいになります。

結果、痛くない、つらくない、疲労度が低い、のが地下足袋なんです。

なんか…すごい話になってきたけど…引き続き聞いてみます

山忍さん

人間の脳って自然な状態だと実はちゃんと使えなくって、マニュアルじゃなくてオートマで体を使ってるんですね。
例えば階段から降りるとき、靴を履いていると階段に対して靴を平行におろすじゃないですか。でも実は素足だとつま先から足を降ろすんですよね、無意識に。その使い方って意識せずに無意識でやっているじゃないですか。

編集部
川尻

やばいやばいやばいやばいやばいやばい……。

山忍さん

でも僕らはその足の使い方を小さい時から強制されて行っていたんです。無意識に行ってしまうことを意識的に操作する、というか。そうすることでより高パフォーマンスの動きができ、低疲労状態を維持できるという。

その動きをやっていこうと思うと、洋服の辛さ、ザックを背負っている時のポジショニングにもつながってくるんですよね。日本って…………………………(早送り)

ーーーーーーーその後、30分経過…。
全部お聞かせしたいのは山々ですが、残念ながら本日はここまで。

「着物」が持つ高い機能性。実は最高の運動着…?!

着物の歴史は古いですが、今の着物文化は昭和時代くらいに再構築されています。それ以前はもう少し自由な着物がたくさんあったといいます。
山忍さんが着物を山で着ようと思った根底には、”人間本体の動き”の他にも、”着物が持つ機能性”が素晴らしすぎたからだ、という。

山忍さん

戦国時代の合戦などでは、今と違って通気性の悪い生地の着物の上に20kg以上の甲冑を身につけ、1日8時間以上も合戦場で戦っていました。これって登山に似てません?

そんな恰好であんなに動いて、よく疲れなかった~と思い、実は「構造上何か特性があるのではないか?」「意外と着物って運動着として使えるのではないか」と考えるようになっていったんですよね。

編集部
川尻

たしかに、重い荷物を持って足場の悪い山を登る…。登山に酷似してますね。

山忍さん

うちの実家には、一族で伝えている「伝書」みたいな書物があります。それこそ各時代の日本の民族衣装、全部の記録があるんですよね。
そこには各衣装ごとに、いわゆる着物を売るための情報ではなく、機能性の部分が書かれているものが結構あったんです。

山忍家に代々伝わる数々の蔵書

(これはほんの一部。自宅には壁一面巻物が眠っているという。)

編集部
川尻

うわ!巻物って初めて見ました!なに時代くらいから残っているんですか?

編集部
川尻

(この人…本当にすごい家系の人なのでは…。)

山忍さん

そうですね…戦国時代からのは確実に残っていますよ。

金子さん

これは私も初めて見ました!すごい、かなり貴重な書物ですね!

(とっても貴重な書物を、今回特別に見せていただきました。)

山忍さん

その巻物を調べていくと、 「この構造ってこんな風にベンチレーションになっていたんだ」とか「ここからここまでが風が抜けるようになっているから通気性が良い。」などの構造上の仕組みから、
「ここからここまで●cmにしている理由」といった細かい部分まで、着物の性能について実に多くの事が書かれていたんです。

着物の機能的な造りに触れれば触れるほど、そこに現代の最新素材を組み合わせたら、実は最強の登山ウェアになるんじゃないか?と思ったんですよね。

編集部
川尻

そんなに着物って機能的なんですか?逆に、暑くて大変そうに見えるんですが…。

山忍さん

いやいや、山着はかなり涼しくて快適ですよ!もちろん涼しさなどは着物の素材によるんですが、山着は東レのドットエアという素材や、サマーウールを使っているので、かなり快適。逆に寒い時季は涼しすぎるくらいです!

編集部
川尻

なるほど…。「登山ウェア」としての機能は十分果たしている、ということですね。

山忍さん

着物の構造を全部実際に着て試した上で、運動とか機能性について語れる人間って実は日本にあんまりいないのではないかと思ったんです。
それに、「自分がやらなければ、もしかしたら着物文化が廃れていってしまうんではないか」という気持ちになったことも、山着を作りたいと思った理由の一つですね。

3,000m級の夏山で、実際にサンプルテストも

ただの着物ではない山着。実際に3,000m級の夏山登山に対応できる性能をサンプルテスト。台風直後の豪雨の中でのレインウエアテスト、倒木、岩場、鎖場、梯子…さまざまなテストを繰り返し、登山道に対応できるアクティブスポーツ着物として誕生しました。

編集部川尻

山着を制作するにあたって、実際に山でテストされたと伺ったのですが、どんな山でテストしたんですか?

山忍さん

色々な場所で行いましたが、奥穂高岳や八ヶ岳とかでもテストしましたよ。あくまでも”夏山”で着る事を想定しているので、積雪が始まる前くらいまでをイメージしています。

編集部
川尻

あくまで”夏山”ということですね。雨が降った場合は登山用のレインウェア着るんですか?

山忍さん

一応レインウェアもあるのですが、今はまだ高すぎるので参考商品です。地下足袋も開発途中なので、早くお披露目できるよう頑張ります!

編集部
川尻

この山着、特にどんな人に着て欲しいですか?

山忍さん

うーん…多くの登山者に着てみて欲しい、と思いますが、特に、というなら「トレイルランナー」の方ですかね。

編集部
川尻

走りやすいっていってましたね!

山忍さん

走るのが早い人が、この山着を着て山の中を走っていたら、本当に忍者みたいじゃないですか!「あの山に忍者がいた!」って盛り上がったら最高です!

編集部
川尻

やっぱりこの人、ふざけてる…笑

山も着物も、最初の一歩はもっと気軽に

山着を作成しているルミックスデザインスタジオは、数多くの着物を制作しているデザインスタジオ。
その店長を務める金子さんは、「本来、日本人のほとんどが着ていた着物。でも現代では”難しそう…”と言った理由から、敬遠されているのではないか。」と語ります。

編集部
川尻

金子さんが山忍さんと一緒に山着を作成した理由は、この山着を通じて「着物をもっと広めたい」という想いからですか?

金子さん

そうですね、もちろんそれが出来たらいいですよね。でももっと簡単に、気軽に着る事が出来る服なんだよ、という事を伝えていきたいです。日本人はもちろん、海外の人にも広まると嬉しいですよね。
そのために、山着は「誰でも簡単に着る事が出来る」着物にしたんです。

編集部
川尻

パッと見、難しそうに見えるんですが…。

金子さん

着物って「一人だと着れない、着付けが大変、動きずらい、苦しい」というイメージありますよね。山着は誰でも一人で着る事ができ、かつ着ていてストレスのない快適な着物なんですよ。
この機会にぜひ、着物をもっと気軽に楽しんで欲しいですね。

もっと自由に登山を!もっと自由に着物を!

初めてみた時の「この人達ふざけてるなー!笑」といったインパクトからは想像できないほど、実は様々な想いから作られていたこの山着。
本格的な登山経験があるからこそわかる、登山に必要な機能性、いらない機能性。日本の伝統を守りつつ、最新のスタイルにアップデートしていくその姿勢に、感銘を受けました。
この山着姿の人を山でたくさん見かける日も、そう遠くないのではないでしょうか…。

みなさんも山に行ったら、是非「山忍さん」を探してみてください。
…顔は見たらダメですよ…絶対…。ドロンっ!

”ここがすごい”山着の製品情報

半着

軽く、涼しく、シワになりにくい「ドットエア」素材を使った半着。帯を使わず着ることができ、登山ザックを背負ってウエストベルト(ヒップハーネス)を締めるときも干渉しません。首から肩にかけて、また、肩関節を囲むような縫製をしないため、洋服にある肩まわりの縫い代の硬さがなくなり、関節の可動部に縫製部分が干渉しない作りになっています。

たっつけ袴

軽く、涼しく、シワになりにくい「ドットエア」素材を使ったたっつけ袴は、サイドのボタンで誰でも履ける袴です。帯を使った従来の袴の履き方も出来る2way仕様。
袴のすね部分に付いている紐は脛の廻りを巻いて結びますが、足の血流を圧迫する事でポンプ効果を高め運動機能の向上と疲労軽減を図ります。

雨用のコート、地下足袋は現在絶賛開発中!発売が待ち遠しいですね。

山着

山着を実際に試せるチャンス!6月22日、23日は「SOOO dramatic!」へ

(写真は、3月に開催されたTOKYO OUTDOOR WEEKENDでの一コマ)

この山着を実際に試せるチャンスが!6月22、23日に開催されるSOOO dramatic!に山着が出店します。ぜひ、この快適さを体験しに行ってみてください!

日時:2019年6月22日、23日。両日とも13:00~19:00まで開催
場所:SOOO dramatic!(東京都台東区下谷1-11-15)
SOOO dramatic!

今回お話を伺ったお二人

RUMIX DESIGN STUDIO
デザイナー芝崎るみを中心とし、和装・繊維の現場で仕事をしてきたメンバーが集結。
ゆかた・きもの・和装小物について、現代にマッチするようデザインし、製作。図案、型、染め、仕立てなどの各工程について、本格的な伝統技法を生かしながら、オリジナルのデザインで、ご意向や市場に合うよう提案しています。

Rumi Rock STORE
住所:東京都台東区千束3-23-11
電話:03-3876-7651

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