免許返納や公共交通空白地域 交通弱者をどう守る

運行開始から2カ月となるコミュニティ交通「さいかいスマイルワゴン」=西海市西彼町

 公共交通の空白地域の解消を狙った西海市のコミュニティ交通「さいかいスマイルワゴン」の実証運行が始まって2カ月が過ぎた。利用できる時間は平日の日中に限られているが、高齢者ら交通弱者を中心に評判は上々のようだ。一方、同市の離島、松島でも路線バスの減便を機に、住民有志がこの春から「乗合公用車」をスタートさせた。人口減、過疎化が進む地域の足をどう守るのか。試行錯誤の現場を取材した。

◎コミュニティ交通「スマイルワゴン」評判 利便性に課題も

 ◆目標は40人
 「スマイルワゴンは“お助け神”ですよ」。西彼町の山あいに住む冨永英子さん(81)の表情は明るかった。足腰が弱ってきたため、通院や買い物は同居する家族に送り迎えを頼んできたが、ワゴンの運行後は家族に気兼ねなく外出できるようになったという。
 スマイルワゴンの利用は登録制。運行は地元のタクシー会社、電話予約センターは市が担当し、4月1日から開始した。電話で事前に乗車時間や運行区間を受け付ける乗り合い方式で、1回の利用は300円(小学生150円)。対象は大瀬戸、西彼、西海、大島崎戸の4エリアで、午前8時台から午後4時台まで運行している。
 利用者は高齢者が多く、「路線バスがない時間帯でも買い物に行ける」「玄関まで運んでくれる」と、おおむね好評だ。一方で乗り合い制のため、利用が集中する時間帯には時間の変更をお願いする場合もあり、「希望する時間に呼べない」との声も上がっている。
 市情報交通課によると、4月の1日平均利用者数は15人、5月は3人増えて18人。最も多い日は31人が利用した。しかし、市は目標を40人としており、松尾勝宏課長は「今後も広報に力を入れたい」としている。
 ◆運行は商機
 今回の運行を商機と受け止める動きも出始めた。市北部の西海町木場地区では、飲食店や美容室など11店舗が5月中旬から、スマイルワゴンで来店した客を対象に、値引きや粗品のプレゼントを始めた。同地区の路線バスは通勤通学時間帯の上下各3便しかなく、来店客の多くは自家用車を利用している。菓子店の濱浦かをるさん(47)は「ワゴン利用者の来店はまだないが、車を持たないお客さんに店を知ってもらうきっかけにしたい」と期待を寄せる。
 スマイルワゴンの登録者は5日現在、1265人。このうち70歳以上が8割を占める。市民からは「エリア外への運行」「夜間運行」を求める声も上がるが、市は当面、現行のままで運用し、利用状況を見極める方針だ。
 西海市ではこの春、地元で路線バスを運行する「さいかい交通」が利用者減や運転手不足などを理由に、平日の約260便中30便余りを減便。市担当者は「スマイルワゴンが減便の影響を抑える側面もある」と明かす。
 実証運行は最大3年間。この間、利用状況などを見極めながら、その後の本格導入を目指す。杉澤泰彦市長は今後について「幹線を走る路線バスに加え、スマイルワゴンで空白地をカバーできるようになった。運転免許を自主返納した高齢者の受け皿にもなり得るよう利便性を高めたい」と話している。

◎減便の空白、住民がカバー 松島「乗合公用車」

 松島では4月から、島民有志が市の公用車を活用して島民を無料で送迎する「乗合公用車」という珍しい取り組みが始まった。市が委託する「さいかい交通」のコミュニティバスがこの春のダイヤ改正で、市営船が発着する松島釜浦港と島内の集落を結ぶ午前7時台の2便と日曜日の全23便の運行を取りやめた。このため市と島民が知恵を絞り、減便の空白をカバーしている。
 松島は周囲16キロ、人口約460人の離島。島内の公共交通機関はバスのみで、タクシーなどは走っていない。昨年11月、さいかい交通から市に運転手が確保できないとの理由で減便の申し入れがあった。午前7時台の減便には離島特有の事情がある。松島と本土を結ぶ市営船の母港は松島。本土行きの始発便と接続するバスを運行するためには前日から島に運転手を待機させる必要があり、その人繰りが難しかったという。
 これを受け市は今年に入り、島民アンケートを実施した結果、減便になる時間帯にも通院や通学で本土に渡る高齢者や児童・生徒がいることが判明。市と島内各地区代表者らが協議し、当分の間、島民から募ったドライバーを臨時職員として雇用する形で、乗合公用車を運行することを決めた。
 乗合公用車は、ドライブレコーダーを装備した乗客定員6人のミニバン。平日は午前7時台に3便、土曜日1便、日曜日(午前8時~午後5時)に計12便を運行している。運転は講習を受けた40~70歳代の7人が担当。月に1度集まり、担当便を決めるほか、安全運行についても意見を交わす。
 週2回、朝の便を運転している僧侶の武宮創志さん(41)は「小学生のわが子が7時台の船で、本土に通学する。何かお手伝いできれば」と手を挙げた。週2回、通院のために利用している70歳代の女性は「自分では運転ができない。大変助かっている」と話す。
 だが、乗合公用車はあくまで「減便を受けた暫定措置」(市担当者)。今後、公共交通空白地の有償運送に移行できるように、運営組織の立ち上げについて島民らと協議を進めていく。

島内バスの減便に伴い、市の公用車を利用して運行を始めた「乗合公用車」=西海市大瀬戸町松島 鶴指眞志さん

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