シニアもスマホで終活 さくさく生前整理   ネット取引、トラブルも急増

東京・巣鴨で開かれた終活セミナー

 フリーマーケットアプリは、インターネット上で個人同士が自由に品物を売買できるスマートフォン向けのサービスだ。2012年にフリル(現ラクマ)がサービスを始めると、若い女性を中心に人気となり、13年に創業したメルカリ(東京)の月間利用者は1千万人を超す。このサービスが今、60代以上のシニア層に広がっている。人生の終わりに備える終活がブームとなる中、「スマホ一つで生前整理ができる」と注目度が急上昇。ただ、直接対面しての取引とは違い、ネット取引には特有のトラブルもある。利用には注意が必要だ。

 ▽両親の遺品整理に苦労、自分のときは…

 東京都品川区の主婦勝見洋子さん(61)は、1月下旬、フリマアプリを使って生前整理を体験する終活セミナーに参加した。

 場所は「おばあちゃんの原宿」として知られる東京・巣鴨。商店街に近接するビルの一室で、講師がスライドを使って、出品までの手順を示す。そして「品物の汚れや傷は正直に。写真も付けて」「送料込みの方が売れやすい」とアドバイスした。スマホを持った50~70代の男女10人余りが真剣な表情で聞き入っていた。

 勝見さんは、亡くなった両親が住んでいた実家を数年前に売却した際、大量に残された食器や着物の処分に苦労した。「自分の場合は元気なうちに、少しずつ持ち物を片付けておきたい」。それが、セミナーに足を運んだ理由だ。

 このセミナーが終わると、自宅に戻ってから、さっそくしまい込んでいた洋服や小物をスマホで撮影して出品した。すぐに買い手がついた。その後、2カ月余りで80品以上を手放し、収益は15万円ほどになった。

 「捨てるには忍びないと取っていた物を有効に処分し、お小遣いにもなる。クローゼットも片付いた」と笑顔を見せる。

 
 ▽セミナーは各地で盛況

 勝見さんが参加したこのセミナーは、終活協議会(東京)が主催したものだ。昨年春に東京や大阪で始めて以降、すでに都市部を中心に20回ほど開いている。竹内義彦代表理事は「楽しく生前整理に取り組む手段としては非常に有効。開催の要望は全国で相次いでいる」と話す。

 メルカリによると、18年に出品された商品のうち、「生前整理」や「終活」がキーワードとして書き込まれていたのは前年の約2・5倍に上っていた。同社は、今後もシニア層の利用者増加を見込んでおり、イベントや新聞折り込み広告で取り込みに力を入れる。

 運営側が注目するのは、シニアの持つ「隠れ資産」だ。これは、1年以上使っていない不要品のことを指す。メルカリがデータを提供し、ニッセイ基礎研究所が監修した昨年の調査によると、最も隠れ資産が多いのは60代以上の女性で、1人あたり推計約50万円分。10代の3・5倍に上った。

 多くの隠れ資産を抱えるシニア層はフリマアプリの潜在的なユーザーでもあり、市場拡大のために欠かせない存在だ。メルカリではスマホに慣れていない人も気軽に楽しめるよう、パソコン向けのサービスを強化する方針だ。

 ▽取引に絡む相談件数は25倍に

 一方、利用者が増え取引が活発になったことでトラブルも増えている。国民生活センターによると、18年度に全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は4406件で、173件だった12年度の25倍に急増した。

 相談事例を見ると個人同士の取引特有のトラブルが並ぶ。「ブランド品のバッグを送ったのに購入者に偽物と言われ、代金が支払われない」「商品を発送、配送業者にポストへの投函まで確認したのに、届いていないと苦情を受けている」などだ。

 フリマアプリによる売買はあくまで個人間の取引。ネット上で場を提供している運営会社がトラブルの仲裁をしてくれるとは限らない。

 メルカリの月間利用者は1千万人超。出品者と購入者が互いの住所や氏名などを知らせずに商品を受け渡しする匿名配送サービスも出てきた。便利さを背景に拡大する市場規模は経済産業省によると、17年で推定4835億円。今後も拡大する見通しだ。国民生活センターは「当事者間での解決が求められる点を理解して利用してほしい」と呼び掛けている。(共同通信=堀野紗似)

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