第26回「あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている」

「死にたい」ってつぶやいたこと、ありますか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。

「あ〜、もう嫌になっちゃったな〜、人生フェードアウトしたいな〜」なんて思ってしまう時期は定期的にやっては来ますが、そういったものはだいたい季節だとか気候だとかのせいにすることにしています。

また嫌なこと言っちゃったな、とか、上手に返事ができなかったな、とか思いそうになったらできるだけ無視。今日は低気圧だから調子が悪い、春だし調子が悪い、暑くなってきて調子が悪い……実態のない何か大きなもののせいにします。だって気圧なんて人の手に負えないから仕方ないよね。不可抗力(もちろん、たとえ自分自身の発言や行動に理由があっても、です)。

季節や天候には抗えないな〜、そりゃあかなわないな〜、自分のせいじゃないね、仕方ないね。

それでも言い訳ができなくなってしまうくらい、もうだめだと思う日は、Twitterで自分の気持ちを検索することにしています。

たとえば、「眠れない」で検索。

「あした楽しみすぎ眠れない」

「面接緊張して寝れない」

「疲れているのにきょうも眠れない」

ちなみに、類似ワードとして「寝れない」なども含むとよりバリエーションが広がります。

そして、たとえば、「死にたい」で検索。

「数学のテスト無理、死にたい〜」

「どこにも馴染めない、はやく死にたい」

「レンチン料理すら失敗する、死にたい」

など、言葉のあやとして使われた気軽なものから、心配になるような重たいものまで、たくさんの「死にたい」がヒットします。

それぞれの重さで、それぞれの意味をもって、それぞれが等しくタイムラインに並びます。そして、その中にはだいたい、いまの自分の気持ちと同じようなつぶやきがいくつか見つかるのです。

その羅列を見ると、わたしはすごくほっとします。

だって、ときどき忘れてしまうから。

そう、人にはたくさんの感情があって、それぞれが自分を生きていることをわたしたちはときどき忘れてしまいます。いろんな「死にたい」があって、その中には自分に似た理由の人もいる。しかも、それをこんな風に検索されたあげく知らないわたしに見られていて、そのうえ安心されているなんて、書いた本人は思ってもいないだろうな。知らないひとたち、お世話になっています、ありがとうございます。

ところで、2冊目の書籍タイトルとデザインが決まりました。発行は7月中旬、タイトルは『成宮アイコ朗読詩集 伝説にならないで』です。サブタイトルは少し長くて、「ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている」としました。

あなた(もしくはわたし)が、ひとりの部屋で眠れなくてつぶやいた「眠れない」も、ひとりの帰り道に無意識につぶやいた「死にたい」も、わたしたちの目に見えているのです。

心配してほしかったわけでも、こうすればいいよとアドバイスがほしかったわけでもなく、吐き出し口としてSNSに放り投げた誰かの感情は、わたしたちが目にしたことで「その感情は存在している」、ましてや「打ち込んだ本人が存在している」という理由にもなってしまう。すごい、ありがたい。

誰かが今日もすがるような気持ちで、「寂しい」や「むかつく」や「助けて」をSNSに流しては削除し、その一瞬に誰かが見てくれることを祈ったり、鍵をつけたりはずしたり、アイコンを変えて自分が変わった気持ちになったり、同じ気持ちの人がいることに安心をしたりします。

そしてわたしたちはどちら側にもなりうる。

帯つきのデザインと詳細は後日公開となります。帯コメントは、1冊目の書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』を通してご縁ができたおふたかたにお願いをしました。

今日も、眠る前に自分の気持ちを検索します。どうか自分と似た人いてくれよ、と思いながら。

Aico Narumiya Profile
朗読詩人。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。2017年に書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー(書肆侃侃房)』刊行。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマに文章を書いている。ニュースサイト『TABLO』『EX大衆 web』でも連載中。2019年7月、皓星社より詩集発売決定。

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