ザ・ノース・フェイスから、突然のお誘い
登山者に限らず幅広い層に大人気のブランド「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」。そんなザ・ノース・フェイスのPR担当からある日、編集部宛てに社内研修へのお誘いが届きました。詳しく話を聞いてみると、全国の店舗スタッフを集めて毎年夏山や雪山でフィールド研修をしているそう。
「フィールド研修って、どんな内容なんだろう?そもそも、直営店舗のスタッフさんってどんな人たちなんだろう?」
いろいろ気になることはありますが、とはいえ楽しそうなので編集部もいくつか質問を用意しつつ密着取材として参加させてもらうことに!
チーム・THE NORTH FACE、冬の八ヶ岳へ!
2月某日、2泊3日の八ヶ岳研修に参加したのは全部で10名。ファッションとしての買い物客が多い直営店ですが、登山初級者からクライミングが趣味のスタッフまで様々。
今回の登山は「休暇」ではなくあくまで「研修」なので、プログラムも盛りだくさん。アイゼンをはじめとするギアの使い方はもちろん、深い雪道の歩き方、テントの設営やビーコン研修、赤岳鉱泉名物・アイスキャンディーを使ってのアイスクライミング体験など雪山での技術を習得していきます。
こちらはアイゼンワークの研修。初めてアイゼンを装着するメンバーもいましたが、ガイドさんに教えてもらいながら着実に氷に慣れていきます。研修の一環とはいえ、雪山の基礎を業務としてしっかり学べるのはうらやましい限り。
夜は参加者と運営側のベテラン社員が熱く語り合うミーティングも。それぞれのブランドにかける思いや、お客さんとどう向き合っていくべきなのか、熱い議論が繰り広げられます。
“ザ・ノース・フェイス”が目指すものとは?
ミーティングも終わり雰囲気も和んできたところで、今回の研修を主催しているメンバーに研修の目的やザ・ノース・フェイスのブランドとしてのこれからについて聞いてみました。
集まったのは今回の研修に声掛けをしてくれたPRチームの鰐渕さんのほか、日本でのブランディングを先頭で担っているプロモーションチームと、ザ・ノース・フェイスのOBである太田さんと伊藤さんを含め現在はガイドとして活動している3名。
ザ・ノース・フェイスブランドを背負い、誰よりも考えてきた錚々たるメンツ。
男だらけの夜の山小屋で聞いた、ブランドにかける思いと本音はいったいどんなものだったのでしょう?
聞き手:YAMA HACK編集部 青柳・草替
そもそも、一般的にザ・ノース・フェイスのイメージって?
編集部
青柳
インタビューの前にまずお見せしたいのが、YAMA HACKのInstagramフォロワーに聞いた2つの質問の結果です。
①「ザ・ノース・フェイス」って、ガチ登山ブランド?おしゃれブランド?
②「ザ・ノース・フェイス」の人たちに聞いてみたい事
6000人以上の読者から得られた結果は、なんと78%が「オシャレブランド」のイメージ。一般よりも登山をしているYAMA HACKのフォロワーでこの数値。実際にはもっと多いと予想できます。
個別にいただいた質問の内容も
「社員の人は登山するんですか?」
「ガチ登山とオシャレ路線、どっちに行きたいんですか?」
「社員の人はオシャレとガチ登山、どっちのブランドだと思っているんですか?」
といったものがちらほら。
編集部
青柳
実際のところ、このあたりどう考えてますか?
本さん
やっぱそういう風に見られてるかぁ~。
まぁ実際にファッションブランドとコラボとかしてるからそういう風に思われるのはしょうがない部分もあるかもしれませんね。
伊藤さん
ここまでダイレクトな意見が集まってるのはスゴい…。
編集部
青柳
実はほかのブランドのアンケートだと、ここまで「本当に山登ってるの?」という質問は多くないんです。
ファッションのイメージが強いだけにそういう印象を持たれているかもしれません。
本さん
まぁその影響はありますよね
編集部
青柳
個人的な憶測で恐縮ですが、登山だけでは市場規模が小さいので、ファッションの方にも手を伸ばさざるを得ないのかな…というある種の葛藤があるんじゃないかなと思っているのですが。
本さん
いや、そうじゃないんですよ。
僕らが目標としているのは“機能を日常化する”ってことなんです。
編集部
青柳
具体的にどういうことですか?
本さん
登山ウェアってハイスペックじゃないですか。それを日常に落とし込んだら、日常でも快適に過ごせるだろうと思っていて。
あくまでも、アウトドアで培ってきたノウハウを街着に落としてるだけなので。だから、ファッションありきで話が独り歩きさせるようなことはないですね。
編集部
草替
なるほど。
でも、とはいえ、事実として売り上げベースで見たらファッション系のお客さんの方が上なのでは・・・?
本さん
ほぼ全部とは言わないですが、実際に割合が多いのは事実です。そもそもアウトドア人口が少ないので、これはしょうがないですね。アウトドアが盛んな他国であれば少しは違うんでしょうけど。
ただ、だからといってその流れに迎合していくつもりは全くないですね。
編集部
青柳
あくまで軸足は登山ウェアということですね。
鰐渕さん
購入されたお客様がそれをどう使うかは僕たちでは指定できませんからね。完全に登山用のウェアをファッションとして着る方もいる。もちろん、ファッションとして着るのがNGだなんて全く思っていません!
でも、お客様が購入するシーンにおいては、その商品がどういうものなのかをきちんと伝えることが大切だと思うんですよね。それができてないと「このジャケットはストリートでもイケますよ」くらいしか言えなくなっちゃうので。
本さん
もともと、ファッション向けに作ったわけじゃなかったのですが、それを「ファッションとしても使える」と広まったわけだしね。僕らもそこを否定することはできない。
だからこそ自分たちは「ガチ登山ブランドでありたい」ですね。
編集部
青柳
でも、最近はファッションブランドともよくコラボしていると思いますが、それはどういう目的でやってるんですか?
本さん
ありがたいことに「ザ・ノース・フェイスは売れてる」とか「人気」って言ってくれる方は多いけど、コアなファッションに興味がある人にはまだまだザ・ノース・フェイスのことを知らないと思うんです。
ブランドは知ってても、機能的な部分とか、そういうところを知らない人たちに僕らがリーチするのは難しい。だから、そういったファッションブランドとコラボすることでブランドそのものや本質的な機能性をリーチするためにやってますね。
編集部
青柳
登山者以外にも広く知ってもらうため、という感じでしょうか?
鰐渕さん
登山者以外というか・・・最近で言うと、ビームス様とのコラボとかがいい例なんですけど、もともと次世代を担う方々にリーチしたいということで始めたんですよ。
アウトドアに触れていない次世代を担う方々を、山に連れていきたい
編集部
青柳
次世代・・・?具体的にはどういうことですか?
本さん
まだアウトドアに触れていない次の世代を担う方々をアウトドアフィールドに呼び込むことを一つの目的としてやってるんです。
鰐渕さん
ビームス様のブランドファンの方々が、私たちがアウトドアに触れてをやってほしいと思っている方々とマッチしているんですよね。
だから、ビームス様のお客様もザ・ノース・フェイスをアプローチして、「それ、アウトドアフィールドでも使えるんだよ」っていうことに気づいてもらう流れが一番いいと思って始めたんです。
編集部
青柳
確かに、若い人に知ってもらうにはビームスとのコラボはうってつけな気がしますね。
鰐渕さん
ただ、商品を作るだけだと「コラボアイテムが出た」だけになっちゃうので、それを連動させて受け皿となるイベントをやってます。
多くの方々に「みなさんの使っているザ・ノース・フェイスの服はそのままアウトドアで使えるんですよ」って気づいてもらいたいんですよ。
編集部
草替
たしかに、「ファッション用に買ってみたけど実はそれ、山でも使えるんだよ」という商品を出しているのって、よく考えたら本当にすごいことだと思いました。
これまでは登山なら登山用、街なら街用として販売されてたものが、どっちで着ても機能的でおしゃれって最高じゃないですか。何着も買わなくていいわけですし。
そういう文化を作ってここまで来ていることが驚きです。
鰐渕さん
手前味噌ですが、それをずっと狙ってきましたからね。あとは、お客様が参加するイベントですね。
編集部
青柳
具体的にイベントってどんなことやってるんですか?
鰐渕さん
年中いろんなイベントやってますよ。今年の冬はスノーマウンテンというイベントをやりました。
スノーシューやクロスカントリーの体験ツアーをやったんですけど、「行ってみたら凄く楽しい!」っていう声をたくさん頂いたんですよ。
ただ、「参加したら絶対に楽しんでもらえる」というのは自信があるけど、来てもらうまでがやっぱり難しいですね。
編集部
草替
行ったことがないから距離のイメージすらよくわからず、わざわざ行くのもねぇ・・・って感じで腰が重くなってしまうんですかね。
鰐渕さん
それはあると思います。今は20人とか30人の小規模でやってますが、地道に口コミで広がっていけばいいなと思ってます。
編集部
青柳
大規模なイベントをしたり、たくさんの人を山へ向かわせるイベントをやったりはしないんですか?
本さん
どうしても大きなイベントだと、その分一人一人が見えなくなっちゃうんですよね。300人のイベントやったとして、終わったときに僕らが参加者の顔を全員覚えてるかっていうと無理なわけで。それは本当にいいことなのか?って不安になる。
逆に大きなブランドだからこそ、小さなこともしっかりやっていくってのが大事なんじゃないかなと思っています。
編集部
草替
読者との関係性を作っていくにはむしろ小さい規模のほうが効果的ってことですね。
上田さん
人数の話が出たけど、自分もガイドでたくさんのお客さんと会ってきたけど、一年毎日ガイドをしてもせいぜい200人くらい。しかも、泊まったりするお客さんもいるわけだからお客さんって実質50人いないくらい。
編集部
青柳
確かに、冷静に考えると意外と少ないんですね・・・!ガイドを依頼するのはみんな違う人ですか?リピーターもいたりするんでしょうか?
上田さん
色んな人がいてとてもありがたいことだけど、その中でも一定数は何回もガイドをお願いしに来てくれる人がいるんだよね。
本さん
「上田さんに会いたい」「上田さんと山に行きたい」っていう人がいるんだろうね。お客さんとちゃんと関係を作っていくってのはそういうことなんだろうね。それはもちろん我々の活動も一緒。
Q:社員は登山をしているの?
編集部
青柳
ブランドとしての考え方についてはとても理解できますし共感するのですが、たとえば新入社員は実際どうなんでしょう。
「山は登らないけど、ザ・ノース・フェイスが好きなんです!」みたいな人はいるんですか?
本さん
そのあたりについてはきちんと理解してくれている人が多いです。アウトドアが好きでザ・ノース・フェイスに入りたい!と言ってくれる人ももちろんいますよ。
ただ、お店のスタッフとして採用されている人とかに隅々まで浸透できてるかというと難しいところもある。
これはうちに限ったことじゃなくて、直営店はいわゆるファッション要素をそこまで意識していない”ガチ登山ブランド”のお店でも同じ悩みを持ってたりします。
編集部
草替
それは分かります。私も前職は某マンモスマークの”ガチ登山メーカー”の直営店で働いてましたが、最初は山の経験なんてなかったんです。
でも、山について知らないと商品がなかなか売れない。だから山を始めました。
本さん
そう思ってもらえたらいいんですが、うちの場合はファッションのお客様も多いから、無理に山に行かなくても成り立ってしまう部分もあります。
ただ、本質的にザ・ノース・フェイスってアウトドアブランドだし、そこを忘れてほしくないっていう思いは強いんです。
だからこういう登山研修もやってるわけですし。逆に、人気があるからこそ登山のイベントをしたりとか本質的なことに意味を見いだせているという部分はあるかもね。
編集部
青柳
それこそ人気がなかったらブランドを維持することで精いっぱいですもんね。
結局はバランスの問題なんですかね。
本さん
実質、山だけ考えてたら難しいでしょうね。
太田さん
山のブランドだっていう自負を持ってないと軸がぶれちゃうんです。
ぶれるときっとファッションとして好んでくれているお客様も離れてしまう。どんどんダメになっちゃうんです。
西村さん
でも本当にザ・ノース・フェイスっていろんな顔があって、いろんな会社、業界とお付き合いがあるんですね。逆に言うと、アウトドア市場を引っ張っていくポジションにあるからこそ、いろんなことをやってかなきゃいけないという意識がある。
だからこそファッション市場と結びついてしっかりと業界をリードしていくのは一種の必要な手段だとおもう。
編集部
青柳
なるほど。そうしていろんな業界と接点を増やす中でみなさんの言う「ザ・ノース・フェイスを選んでくれたお客様をフィールドに呼び込む」という目的を果たしているんですね。
全部つながっているんですね。
本さん
そう、そうなんです!結局、いろんなところとコラボしたりタウンユースのアイテムも展開したりもするんだけど、ザ・ノース・フェイスはあくまで登山を軸にしたブランド。
だからこういう研修をしながら、ブランドの根本を理解する活動が必要なんですよ。
フィールド研修はどうなっていく・・・?
編集部
青柳
今回のようなフィールド研修は始めてどのくらいになるんでしょうか?
本さん
もう10年ぐらい。自分と西村さんは8年前くらいから参加してるかな。そろそろ交代しなきゃいけないんだけどね。今研修を受けている人たちの中から、引っ張ってくれる人が出てきたら嬉しいね。
上田さん
あと、研修を受けた人同士が自発的にメンバーを誘って、仕事じゃなくても山に出かけるような流れができたら一番理想だね。
編集部
青柳
受け身で研修を受けてたらなかなかそういう流れにはならないですからね。研修を通して山の楽しさや厳しさが伝わればいいですね。
最後に、この研修を通して、どうなってくれればいいと思いますか?
本さん
どうか、ザ・ノース・フェイスから離れないで・・・。
なんちゃって(笑)
突き詰めると、道具や服は命を守るためのものです。お客様の命を預かっているという自覚をもって接客してほしい。
そのためには当然自分のスキルアップは必要だし、お客様が求めているものに答えてほしい。嘘はつけないわけだから。そういうプロ意識を持ってお客様に向き合ってほしいかなと。
編集部
青柳
(すごく良いこと言ってるのに、半分寝てる・・・!)
伊藤さん
研修でやったから「これが山登りだ」と思うんじゃなくて、あくまでいろんな山登りの一つの形であることを知ってほしい。
その上で、これからいろんな形態の登山を体験することで、自分にとって楽しいスタイルを見つけてほしいなと思います。
上田さん
僕は接客とか人付き合いは苦手だし、自分が思う登山の魅力を無理に押し付けようとは思ってない。ただ、お客様なりに楽しんでほしいとは思ってるし、やっぱり天気のいいときに素敵な思い出を作って欲しいとは思ってるんだよね。
今回参加してるのは接客の人たちだから多分接客が好きなんだろうけど、お客さんと会話して商品を買ってもらうだけで終わらせてほしくない。山のことを知って、正しく接客してほしいかな。実体験があるからこその「正しい接客」には意味があると思う。
編集後記
インタビューの翌日は研修メンバー全員で硫黄岳に登頂し、無事下山。もちろん、編集部の2人も同行させてもらいました。
普段は店舗に立っているスタッフと話していると、とにかくお客さんに自分たちのブランドをどうやって伝えていくか、そのために「自分たちがどうあるべきか?」を考え、熱く語ってくれる人が多いこと!
本さんの「服や道具は命を守るもの。お客様の命を預かっているという自覚をもって接客してほしい。」というセリフは、おしゃれさだけを突き詰めたブランドからはなかなか聞けない言葉で、改めてザ・ノース・フェイスは登山のブランドなんだなと再認識させられました。
今度お店でザ・ノース・フェイスのアイテムを見つけたら、ぜひこの言葉を思い出してみましょう。ブランドの見方が今までとは少し違って見るかもしれませんよ。
<THE NORTH FACEのイベント情報>
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