ゆりかごの検証を

 赤ちゃんを置く透明な箱には肌触りの良さそうな布が敷かれていた。親が育てることができない子どもを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を2007年から運用する熊本市の慈恵病院を訪ねた▲18年度までに累計144人を預かった。半数は孤立出産。親の居住地は全国にわたる。貧困、未婚の妊娠、不倫、パートナーの問題-。育てられない事情はさまざま▲殺害、遺棄などを回避させるセーフティーネットは幾重にも必要。しかし子どもの遺棄などについて慈恵病院医師は表面化しないケースを含め年間100~300人に至ると推測する▲ゆりかごには育児放棄や孤立出産を助長するなどの批判があり、設置時は本県でも賛否の声が聞かれた。当時の安倍晋三首相が不快感を示した経緯もある。だが医師は、批判者たちは乳児の遺棄などに対しゆりかごに代わるシステムを提案できていないと指摘する▲虐待死事件が全国で相次いでいる。孤立した親子の息苦しい風景を想像せざるを得ない。そんな状況の広がりをゆりかごは懸命に受け止めてきた▲全国から慈恵病院に寄せられる妊娠・出産の悩み相談は18年度も6千件を超えた。ゆりかごが果たしてきた役割や機能を国レベルで本格的に検証、評価する時期が来ているのではないか。(貴)

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