化粧品塗布中の感触の時間的変化を評価する手法を開発

2019年6月13日
花王株式会社

化粧品塗布中の感触の時間的変化を評価する手法を開発
~アイトラッカーを活用して視線の移動で評価、感触の時間的変化を可視化~

花王株式会社(社長・澤田道隆) 感覚科学研究所とスキンケア研究所は、化粧品の塗布中に人が感じる感触について、その時間的変化をアイトラッカー(視線の移動をとらえる機器)を活用して視線の移動により評価する手法を開発しました(図1)。これによって感触の時間的変化の可視化が可能になり、塗布しているときから心地よさ、楽しさなどの使い心地に価値が感じられる化粧品の開発に有効な指標となります。
本研究内容は、日本認知心理学会第17回大会(2019年5月25~26日、京都)で発表しております。

図1 視線の移動による感触の時間的変化の評価(手元に塗布する場合)

■背景

化粧品では、保湿などの機能とともに、塗布しているときの感触などの使い心地もお使いの方にとっての重要な価値です。しかしこれまで肌に塗布しているときの感触は、塗布が終わった後で「なめらか」「密着感がある」などの官能評価を行なうことが一般的で、塗布中に感触がどのように変化しているのかは詳細に評価されてきませんでした。

■塗布中の感触の時間的変化を評価する手法を開発

花王は、塗布しているときから高い価値や満足を感じられる化粧品の開発をめざして、これまで主に飲食品の味などの時間的変化の評価法として用いられてきたTemporal Dominance of Sensations法(TDS法)をもとに、塗布中の感触の時間的変化をアイトラッカーを活用して視線の移動により評価する手法を開発しました。
TDS法で飲食品の味などの時間的変化を評価する場合は、口に入れた後すぐ計測がスタートし、評価者はコンピュータ画面上に呈示される複数の特性用語(「甘い」「すっぱい」など)からその時に“dominantなもの”(注意をひかれた感覚)を選択して、感覚の時間的変化を評価します。この際、特性用語の選択は“キー押し”など手指で行なわれます。評価の結果は、「甘い」「すっぱい」などの特性が選択された割合の時間的変化を線グラフで示したもの(TDS曲線)として可視化されます。
このTDS法を化粧品塗布中の感触に適用しようとすると、大きな課題がありました。“キー押し”で特性用語を選択すると剤に触れている手指の動作や感覚が阻害されて、正しく時間的変化を評価できないことが懸念されるのです。そこで今回、手指の動作や感覚を阻害しない方法として“視線”に着目。アイトラッカーを用いて、コンピュータ画面上の感触に関する特性用語(「なめらか」「密着感」など)に評価者が視線を向けるだけで選択できるようにしました(図1)。試行の結果、“視線”による選択は“キー押し”や“音声”による選択と比較して、感覚を遅れなくリアルタイムに評価することが可能なうえ、評価者にとっても自由度が高くて回答しやすい印象であることも判明。“視線”による選択方法が感触の時間的変化の評価に適していることが確認できました。
また、この手法では感触を評価する特性用語の選定も重要です。複数の調査から評価対象となる化粧剤の感触にあてはまる単語をリストアップしてそれらを因子分析し、時間的変化を感じられることなども加味したうえで、特性用語を選定します。

■本手法を用いて塗布中の感触の時間的変化を評価した事例

クリーム状と乳液状のテスト処方の塗布中の感触の時間的変化を、前述の方法で6つの特性用語を選定したうえで評価しました(図2)。クリーム状の処方は塗布初期になめらかさ、続いて比較的早い段階から終わりにかけて密着感が出現しました。一方、乳液状の処方では塗布初期になめらかさ、中期になめらかさ、油っぽさ、密着感、中期以降から終わりにかけては密着感が出現しました。本手法により剤の塗布中の感触の時間的変化が評価され、同一評価者での再現性も比較的高いことを確認しました。

図2 塗布を始めてからなじみ終わるまでの感触の時間的変化

花王は、本手法を化粧品の設計や評価に活用して、塗布中の心地よさや楽しさなど、使い心地にも高い価値と満足を感じられる商品の開発をめざしてまいります。