700人全員に出社義務のない会社

 テレワーク「当たり前」で、みんな幸せ(1)

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 ITの驚異的な発展によって「働く場所を選ぶ自由」が広がってきた。会社から離れた場所でパソコンとインターネットを使って仕事をする「テレワーク」。働き方改革で政府も推進するが、一足早くベンチャー企業を中心に踏み込んだ事例が増えてきた。
 
 便利なITツールを駆使すれば、自然の豊かな故郷に住んだまま、東京の企業のエンジニアとして活躍するといったことも普通にできる。満員電車に詰め込まれることもなく、取材した人たちはみんな幸せそうな顔をしていた。この流れを進めていけば、東京一極集中の問題を解決する糸口になるかもしれない。

 ▽馬車から自動車に変わったように
 
 「リモートワーク(テレワーク)を当たり前にする」。こんな理念を掲げ、700人以上いる全員(業務委託含む)がテレワークという会社がある。オンラインアウトソーシング事業を手掛けるベンチャー企業の「キャスター」(東京)だ。

キャスターの中川祥太社長(同社提供)

 会社登記に必要なため小さなスペースを都内に借りているが、誰にも出社義務はない。社員の多くは、全国各地に散らばる在宅勤務の女性たち。子育て中の人も多く、女性比率は9割近い。社内ではチャットやウェブ会議といったITツールがフル活用され、業務を進める上でなんの問題もないという。

 中川祥太社長(33)は「2014年の創業時からうちは全員がリモートワーク。その後もずっとリモートで構築しています。それが『当たり前』にできるし、できないというなら反論してほしい」と語る。

 記者が「全員がテレワークというのは珍しいですね」と聞くと、「珍しいというかこれがスタンダード。効率的なので、こうならざるを得ません。今、馬車から自動車に変わったようなものなのです。そのままでいたければずっと馬車に乗ってください。ただ10年後には馬車は走っていないですね」と自信たっぷりに語った。

 東京の企業の労務チームの一員として沖縄で在宅勤務をする比嘉まさみさん

 ▽面接官はドイツ在住

 中川社長から話を聞いた後、社員の一人で沖縄県北中城村に住む比嘉まさみさん(41)に会いに行った。同社管理本部で労務を担当していると聞いたからだ。記者の感覚では、人事や労務といった管理部門は会社の心臓部であり、本社ビルに閉じこもって働くイメージがあった。しかし、その固定観念は打ち砕かれた。
 
 那覇市出身の比嘉さんは3年前に入社。現在、夫と1歳の長男と暮らしている。もとは那覇市内の税理士事務所で働いていたが、結婚に伴い北中城村に引っ越すことになり、片道1時間のマイカー通勤になった。

 「雨だと1時間半~2時間かかる。移動だけで往復2時間以上、この時間に給料は発生しないし、なんて無駄なのと思っていました」。マイカー長時間通勤の生活を3、4年続けた後に仕事を辞め、必死で在宅ワークをできる会社を探した。そんなときにネットで見つけたのがキャスターだった。入社面接も当然のようにオンライン。面接官はなんとドイツ在住だった。

 仕事は最初、経理を担当した。子どもは入社後に授かった。「入社後1年で産休に入りました。子どもができたのはリラックスして仕事をしているということも大きいかもしれないですね」

 労務チームは、給与計算や勤怠管理の仕事をしている。見学させてもらったのはチームのウェブ会議だ。チームは4人いるが、1人は産休中のため現在は3人で業務を回す。

ITツールを使って行われる労務チームのウェブ会議

 沖縄の比嘉さんの家ではウェブ会議を見学させてもらった。会議に参加した他のメンバーは千葉県、宮崎県に住む。10分ちょっとの会議では市区町村から届く書類の処理について話し合われた。議論は手際よく進み、各自のパソコンで情報が瞬時に共有される。リアルタイムで議事録も作成され、対面で行う会議に比べても非常に効率的だった。

 取材には東京にいる広報担当者の森ゆかりさんが、画面を通じて立ち会った。記者が驚いた顔をしていると、比嘉さんは「私たちにはあまりにも当たり前すぎてね」と笑った。「会社に出勤してやる仕事とリモートワークでやる仕事の違い?。うーん、あまりないですね」

 比嘉さんは現在、1日5時間勤務のパート社員だ。ほかに地元中小企業などを支援するコンサルタントの仕事を副業としてやっている。子育てにも十分な時間を取れる柔軟な働き方ができており「私のライフワークバランスとしては、これがちょうどよい」と笑顔で語った。

 ▽東京に集まって働くスタイル、効率的?

 キャスターで働く人の中には、大企業に就職して高度なスキルを身につけたものの、夫の転勤に付いてくために仕事を辞めざるを得なかったといったケースなどが多いという。

 中川社長は「これは北海道のAさんにお願いした方ができるのに、あまり向いていない東京のBさんにお願いしている。これが現状の仕事です。つまりエリアが人をしばっている。リモートワークでAさんにお願いしたほうが生産効率性が上がります」と力説する。

 東京の狭い場所にみんなが集まって働くスタイルが効率的とは限らない。過密になりすぎて非効率になっていることもある。働く場所を選べる新しい形が広がっていけば、都会に巨大なオフィスビルを大量に建てる必要はなくなるだろう。中川社長は「20年、30年のスパンで見れば、都市の形も変わると思っています」。(続く、共同通信サイバー報道チーム=北本一郎)

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